インタビュー 情熱と挑戦の先に

初代から118年、竹の芸術家を育てた「遠回りな過去」  四代田辺竹雲斎

四代 田辺竹雲斎 工芸作家(前編)

文:十代目 萬屋五兵衛 / 写真:竹久 太斗(特記なき写真) 10.04.2017

『コネクション』 日本橋高島屋 2017年 Photo by Tadayuki Minamoto

世界的に注目を浴びている竹工芸家・四代田辺竹雲斎。彼の作品は大英博物館、ボストン美術館、フィラデルフィア美術館といった世界の名だたる美術館に収蔵されている。ダイナミックな作品づくりに挑む彼が掲げるのは、「伝統とは挑戦なり」という代々受け継がれてきた教え。伝統と新潮流の両方を極めようとする芸術家の過去と今を追う。(前編)

2017年6月、1万本以上の竹ひごを使った巨大インスタレーションが、東京・日本橋高島屋本店の1階正面玄関に登場した。接着剤やくぎなどを一切使わず、伝統工芸の技法を使って手作業で作成された作品は、一辺が5メートル以上にも及ぶ。

無数の竹ひごを組み上げた作品は、ダイナミックでありつつも繊細。うねる竹のエネルギーは、通りかかった多くの人々を引きつけた。

その巨大作品を作り上げたのは、四代田辺竹雲斎(ちくうんさい)。数少ない竹工芸を手がける、由緒ある一家の出身である。

竹雲斎の存在は、日本のみならず海外でも知られている。大英博物館、米国のボストン美術館、フィラデルフィア美術館といった、世界の名だたる美術館に作品が収蔵されている。また海外の著名なギャラリーと契約し、新作を精力的に発表し続けている。

おしなべて伝統芸能を世襲で引き継ぐ人々は、伝統を守り、次世代につなげていくという宿命を背負っている。普通に考えれば保守的と思えるが、竹雲斎の作品からは、まるで真逆の印象を受ける。作品の一つひとつに革新性があるのだ。作品の前に立つと、技術の伝承だけには終わらない、新しい要素を取り込もうとする本人の気概が感じられる。

竹雲斎は言う。

「我が家には初代から受け継いできた『伝統とは挑戦なり』という大切な言葉があります。この言葉は、技術や養われた精神を大切につなげていく一方で、その時代に合った挑戦が重要だということを教えてくれています。

だから僕が継承した伝統とは、『守るイコール変わらない』ではなく、その時代に合った新しいものを生み出すことを意味します」

作品は現代アート、だが技術は縄文時代に由来

実際、竹雲斎はその言葉を体現している。

『四代 田辺竹雲斎 襲名展』が開催された日本橋高島屋の正面玄関では、多くの人々が口々に『いったいこれは何?』と言い、足を止めていた。その作品に近づき、それが無数の細い竹で編まれていることを理解すると、それがどうやって作られ、そしてどうして崩れないのか、と言わんばかりの目で注意深く観察していた。

「4人の弟子と5人がかりで、工房でパーツを作り、百貨店の営業中に1週間かけてお客様の前で組み立てました。現場での公開制作です。パーツ作りから完成までに約1カ月をかけました」

この作品は設置する場所の雰囲気を感じながら、その場で作成する「サイトスペシフィック・アート」と呼ばれる手法を適用している。竹雲斎がしばしば用いる代表的な表現方法でもある。

「80年を誇る百貨店の歴史と、初代が竹を使い始めて118年になる僕の家系の歴史を重ね合わせ、『つながり=Connection』をコンセプトにして作成しました。

人々の生活に寄り添ってきた百貨店が、周年を期に新しく進化しようしています。私自身も襲名というタイミングで歴史を受け継ぎながらも新しい時代を作ろうとしています。百貨店の進化のエネルギーと、私の襲名というタイミングをリンクさせて完成させました」

作品は、エネルギーの循環、成長していくパワー、要素と要素をつないでいくことを、竹という素材を使って表現されている。まさに現代アートそのものだが、支えている技術は太古から受け継がれているものだという。

「あの作品は、亀甲編みと呼ばれる竹工芸の独特の技法を使って制作しました。この編み方は実は、8000年前の縄文時代の遺跡からも発見されている、日本人が生み出した技法なのです。作品は現代アートですが、技術は超古典的な手法です」

5メートル四方を超える巨大な立体オブジェが、接着剤やくぎなどを一切使わずに自立できるのは、しなやかで弾力性に富んだ竹そのものの素質によるもの。その上、竹の素質を熟知していなければ決して表現できない造形である。

「インスタレーションをする理由の一つは、『竹はこんなこともできるんだ』と感じてもらって、そこから竹の魅力を知ってもらいたいからです。

竹は、アジアにしか生育していません。それを工芸品に使い、しかもその技術を芸術の域まで高めている地域は日本だけです。それだけ、日本人にとって竹は身近で魅力あるものと言えるでしょう」

竹を扱うために生まれてきた。今でこそダイナミックな活躍を見せている竹雲斎だが、これまでの歩みは、迷いと苦しみを伴うものだった。

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