インタビュー 情熱と挑戦の先に

ラップ、それは生まれて初めて「一番になりたい」と渇望したもの──晋平太

晋平太 ヒップポップ・アーティスト(前編)

文:十代目 萬屋五兵衛 / 写真:山田 大輔 12.08.2017

実力派ラッパー・晋平太(しんぺいた)。MCバトルの世界で数々の勝利を勝ち取ってきた。「ラップは誰にでもできる表現方法」と断言する晋平太は、企業や子供たちにもラップを広めようと活動する。ラップの可能性を信じる“ラップの伝道師”、晋平太の道程をたどる。(前編、敬称略)

ラップは1970年代後半、アメリカの東海岸で生まれたとされる、ヒップホップ・カルチャーの一つである。DJが流すビートに合わせ、独特の節回しで歌うように語る、あるいは語るように歌う。この独特のスタイルに魅了された数多くの若者がこの分野を突き詰め、プロのミュージシャンとして世に出た。

ラップの中で最近特に人気を博しているのはフリースタイル(即興)ラップだ。フリースタイルラップはMC(ラップの歌い手)同士が小節ごとに交互にラップを展開し、即興性や言葉の内容、ディス、韻、フロウの技を競い合う。

*ディス:disrespect(ディスリスペクト)、侮辱を略した俗語。起源はヒップポップ系のミュージシャンが差別・貧困などの社会問題を批判する歌とされている。
*フロウ:リズムに乗り、言葉にメロディや緩急を付けるスキル。

競技のことを「MCバトル」と呼ぶ。実際、バトルという言葉が示すように、格闘技のような空気が漂うことも珍しくない。対戦相手を誹謗(ひぼう)中傷混じりの言葉で攻撃することが多いからだ。

時には、いまにも本当のけんかに発展するような緊張感が走る。一方、漫才を思わせるボケやツッコミが展開され、観客の笑いを誘う場面もある。だが総じて観客が楽しみにしているのは、猛烈な瞬発力で発せられるMC同士の「言葉の技」の攻防だ。

MCバトルが、日本の音楽シーンに入り込んでから20年以上が経った。成熟期に入った今、日本のMCバトルは新たな段階に移行しようとしている。

背景には、テレビ朝日の音楽番組「フリースタイルダンジョン」がヒットしたことが挙げられる。

*フリースタイルダンジョン:2015年9月30日にスタートした番組で、2016年4月からはインターネットテレビ局のAbemaTVでも配信されている。

その内容は、挑戦者(チャレンジャー)が「モンスター」と呼ばれるプロのMCと対戦するというもの。強者MCたちの間で勝ち抜き、賞金を獲得することを目指す。この番組は、ヒップホップファンの間だけで楽しまれていたフリースタイル・ラップを一般層にまで認知させるのに貢献した。

未踏の成果を成し遂げた

フリースタイルダンジョンでは、挑戦者が5人のモンスターを連続でクリアすると、「完全制覇」と見なされて賞金100万円を獲得できる。

ただ、個性的なMCばかりが顔を並べている中、完全制覇はかなり厳しいとされていた。実際、放送から1年以上が過ぎても完全制覇したチャレンジャーはおらず、最近まで「プロのMCを相手に完全制覇を達成することは不可能ではないか」と見なされていた。

しかし、2017年7月にとうとう完全制覇を成し遂げたMCが誕生した。ヒップホップ・アーティストの晋平太だ。完全制覇した挑戦者は晋平太が初めてである。

実は晋平太は、2005年にMCバトルの「B-BOY PARK MC BATTLE」に優勝して以降、数々のMCバトル大会で優勝した実績を持ち、ヒップポップファンの間では知られた存在だった。

*B-BOY PARK:1997年から始まったヒップホップのイベント。MCバトルの優勝者にはKREVAなどのメジャーな領域で活躍するMCがいる。

そんな晋平太でも、このフリースタイルダンジョンは特別なものだったようだ。

「僕は、何をやっても中途半端なやつでした。その中で、ヒップホップだけが本気になれたものだったんです。だから自分の胸の中にあるMCバトルの形を、ここでもう一度、提示してみたかったんです」

何をやっても中途半端、と本人は言うものの、既にMCバトルの世界で数々の勝利を勝ち取ってきている。しかし、現状に満足している自分を許せなかったのだろう。だからこそ、フリースタイルダンジョンに挑戦し、見事に初の完全制覇を勝ち得た。

ラップに出会って、大きく人生が変わったという晋平太。「最強MC」とも呼ばれる若手アーティストの生き方を追いながら、新しい領域を切り開こうとする若手世代の視点を読み解いていく。