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ロンドン市長が渋谷のシェアサイクルに乗りに来た理由

デジタル技術を駆使した自転車、東京五輪をにらんだ普及の礎

文:十代目 萬屋五兵衛 11.19.2015

「シェアサイクル」のサービスが世界の都市で広がっている。後れを取った日本だが、東京・渋谷でデジタル技術を駆使した新型のサービスが始まっている。シェアサイクル先進都市・ロンドンの市長も視察した新サービスに迫る。

行政のカベを乗り越えようとするベンチャーの挑戦

その企業とは、COGICOGI(コギコギ)というシェアサイクル関連のベンチャーです(Webサイト )。COGICOGIが持つ技術やサービスを渋谷区が導入することを検討しており、ロンドン市長のボリス氏が渋谷に来た理由も、COGICOGIが開発したサービスを視察することが含まれています。

COGICOGIのサービスは、デジタル技術を導入することで利便性の高い仕組みを実現しています。

通常、シェアサイクルに向けて用意された自転車は、ポート内の駐輪機に固定されています。ユーザーが自転車を借りる際には、ポート内にある料金マシンを操作し、装置に取り付けられた固定キーを外します。コインパーキングのようなイメージです。そして返却する際は、ポート内の空いている駐輪機に自転車を入れて返却することになります。

しかし、COGICOGI(コギコギ)社の自転車はそれらとは違っていて、駐輪機は必要としません。自転車そのものにロック機能がついています。ロックを解除するには、スマートフォンやタブレット機で動作する専用アプリを使います。なんとも今風です。

自前のモバイル機器で、目の前にあるシェアサイクルの鍵の開け閉めができてしまう。しかもアプリを通じてクレジットカード決済が可能です。細かい話ですが、小銭を用意する必要がないというのは大きなポイントです。

社長の中島幹彰氏に話を聞くことができました。

「自転車にはGPSが搭載されていて、管理側は今どこに自転車があるのかを一元的に把握できます。ですから都内を巡回しているスタッフが、必要なタイミングで必要なポートに自転車の集配ができるようになっています。また、ポートを設置する工事が不要なので、費用も抑えられます。つまり、ポートの場所もこれまでより自由に設定できるわけです」

左がCOGICOGIの中島幹彰社長

先に筆者が述べたような運営区域の課題も、民間企業が管理すればクリアできます。

「現在、渋谷区をはじめ目黒区、港区、新宿区など幅広いエリアでの運営が可能になっています。私たちのサービスにおける自転車ポートは、その地域のビジネスホテルやマンション、オフィスやカフェなど、このサービスの価値を理解してくださっている企業様やビルオーナー様の敷地内に数多く設置されています。最近では東京以外の区域からも相談を受ける機会が増えてきました」

COGICOGIの自転車ポート

肝腎の自転車そのものはどうでしょうか。車体はこげ茶色で統一されていて落ち着いた外観。どんな服を着ていても、違和感なく乗りこなせそうです。電動アシスト付なので、多少の坂なら楽に越えられそう。

スマホやクラウドなどのデジタル技術に支えられたシステム、“越境”できる機動性、違和感のないデザイン。ボリス市長がわざわざロンドンから視察に来る理由がかいま見られたような気がします。

自転車ポートの看板に視察記念のサインをするボリス市長

冒頭で述べたように、シェアサイクルサービスは世界を代表する大都市・ロンドンで成功を収めています。東京とロンドンは密度や交通事情で共通点がありますので、シェアサイクルが東京でもっと受け入れられる可能性は十分にあると言っていいでしょう。

特に注目すべきは訪日観光客の増加です。ここ数年で2桁増加している訪日観光客をにらんでサービスをブラッシュアップすれば、普及のスピードは加速しそうです。

実際、中島社長は次のように語ります。

「海外から日本に来られた方々の利用が増えています。利用していただいた海外のお客さまはSNSなどで感想をシェアしてします。ポートや自転車の台数を増加させていくほか、ご要望にきちんと対応してサービスを拡充していくことが今後の目標です」

ボリス市長は「東京もロンドンを追い越す実績を築けるはずだ。一緒にスクラムを組もう」と呼びかけて渋谷を去りました。

今こそ「シェア」しよう

ここ数年「シェア」という言葉がよく聞かれます。“共有する”という意味ですが、最近特に頻繁に使われる場としてFacebookなどのSNSが挙げられるでしょう。他人がアップロードした記事や写真などのデータを、自分の知人やそれ以外の人たちに共有し伝達する意味合いで使われています。

今回ご紹介したシェアサイクルを始め、最近はリアルな空間でも至るところで耳にする機会が増えました。例えば、「シェアハウス」「シェアオフィス」などの居住空間。「カーシェア」「ライドシェア」などの自動車。仕事を分担する「ワーキングシェア」。作りたい人と食べたい人の「クッキング・シェア」。このような具合で、シェア系サービスとも言うべきものが、続々と誕生しています

シェアという言葉には、どこかピースフルでエコなニュアンスが感じられませんか。筆者の知り合いの若者(20代半ば)は、「シェアすることは気持ちがいい」と言います。共有し共感を得ることが、若い世代の間では共通の価値ある行為として認識されているようです。

しかし、その親に当たる50歳代くらいのおじさま世代(カンパネラの読者にも多いことでしょう)には、その感覚はしっくり来ていないようです。理由の1つとして、シェアという言葉は企業で長く働いてきたおじさま世代にはマーケット・シェア(市場占有率)を連想させることが挙げられそうです。

おじさまたちが生き抜いてきた競争社会では、上司から「シェア拡大」「シェア獲得」と繰り返し言われ続けてきました。であればシェアという言葉は共有や共感とはほど遠いかもしれません。

しかし、シェアサイクルを始めシェアの概念が浸透しつつある今、おじさんたちにも是非「シェアしよう」という言葉を気負わず使ってほしいと思います。まずは、健康づくりのためにもバイク「シェア」リングから始めて、その体験を周りの人たちに「シェア」してみるのもいいかもしれません。

十代目 萬屋五兵衛(じゅうだいめ・よろずやごへい)
フリーライター
本名:高橋久晴。株式会社更竹代表取締役。大学卒業後、音楽業界から職業人歴をスタートさせる。制作、宣伝を中心に独自のマーケティング戦略で有名ミュージシャンやアーティストたちと多くのプロジェクトを成功させる。その後、飲食店開発の企業に転職し、飲食店をリアルメディアとしたマーケィング部門や、他業種のリアル店舗をつなげた新BGMサービス事業、フィットネスコミュニティ事業など、ライフスタイル事業を幅広くプロデュース。数社の役員を歴任後の2013年、家業の会社を軸に自身の経験を活かした企画コンサルティング事業を開始。「現代版よ・ろ・ず・や」というコンセプトを掲げ、多くの企業のプロジェクトに携わっている。

※萬屋五兵衛:1700年代から家系伝承されてきた職業名
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