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お客さんは「特定中数」、酒場を巡るコメディアンの生き様

ナオユキさんが示すSNSとLCC時代のワークスタイル

文/写真:須田 泰成 06.02.2016

全国の酒場でジョークを飛ばし、客を笑わせ、旅する男がいる。その男はスタンダップコメディアンのナオユキ氏。破天荒なまでに自由な働き方で生き抜いている彼の秘密に迫った。

2016年5月11日の夜、島根県隠岐郡海士町(あまちょう)の居酒屋「紺屋」の店内には、大勢の客の笑い声が響き渡っていた。

日本海にポツポツ浮かぶ隠岐諸島は、島根半島から約60 km。中ノ島全域を占める海士町は、人口2300人ほど。近年、Uターン、Iターンの増加で注目されているが、本土からフェリーで約2時間半の辺地である。ちなみに、承久(じょうきゅう)の乱で鎌倉幕府に破れた後鳥羽上皇が、配流された土地としても知られている。

そんな島の、店の片隅にあるステージで、黒いハットを被ったホロ酔いの中年男が、グラス片手にマイクスタンドに寄りかかり、ささやくように言葉を紡ぎ続けている。その姿は、さながらギターを持たないブルースミュージシャンのようでもある。

「俺の話は、徐々にオモシロクなるんで、最初の方を聞いて笑えなくても慌てずに。途中まで聞いて笑えなくても諦めずに。最後まで聞いて笑えなくても決して希望を捨てずに。家に帰ってから面白くなるかもしれないんで、とりあえず聞いてください」

一見、酔っぱらいの繰り言のよう。しかし高度にリズミカル。しかも複雑にスパイシー。耳を傾けるうち、知らず知らず、ゆるやかなグルーブに飲み込まれていく。

「俺のことを初めて見るという人がほとんどやと思います。こっから見てるとようわかる……ものすごく……不安そうな顔してはる。こないだもそういう人がおったけど、最後は身を乗り出すようにして……寝てはった」

場内に充満した笑いのガスが爆発する。それから90分。緩急自在に繰りだされる大小さまざまなジョークの花火に全ての観客が引き込まれ、心地よい賑わいとともに夜がふけていった。

マイクの主は、スタンダップコメディアンのナオユキさん。

「ピン芸」のナンバーワンを決める「Rー1ぐらんぷり」などのテレビでも知られているが、暮らしの大半は、旅に生きている。

「旅先の酒場での公演は、一年に150カ所から200カ所ですかね。寄席は100席です。大切なことは全て酒場と落語に教えてもらったから、酒場と落語には義理があると勝手に思てます」

そんなナオユキさんの話を聞いた。

待ち合わせしたのは、大阪は、難波(なにわ)の路地裏にある店「ぶんちゃっ」。関西の大御所ミュージシャンがライブをすることもある、知る人ぞ知るディープ酒場である。ナオユキさんも、時折ここでライブに立つ。

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