特集

『世界入りにくい居酒屋』が放つ不思議な魅力(前編)

個性的な居酒屋の映像の数々…プロデューサーに聞く番組制作の裏話

文:須田 泰成 12.17.2015

NHK-BSの紀行番組「世界入りにくい居酒屋」が話題を呼んでいる。ヨーロッパやアジアの裏町にあるディープな酒場のリアルな様子が面白い。プロデューサーへのインタビューを通じて、番組の魅力に迫る。

最近、酒の愛好家の間で、NHK-BSのある番組がとても話題になっている。木曜日の午後11時15分、帰宅して一息ついて、寝る前に一杯始めようという絶妙のタイミングで、その番組は始まる。

番組の名前は『世界入りにくい居酒屋』。2014年7月にオンエアが始まった番組である。

毎回、画面に映るのは、パリ、バルセロナ、リバプール、ホーチミン、台北といった、ヨーロッパやアジアの大都市の風景。リポーターはなく、ただカメラが、観光客がゆるゆる歩くくらいのスピードで街にわけいっていく。紀行番組のようであるが、きっちりした説明口調のナレーションがあるわけではない。

映像のバックに流れるのは、二人の女性タレントの掛け合い。映像を見ながら酒を飲み、女子会をしているという雰囲気である。

ほどなくすると、この番組が普通の番組ではないことが明らかになってくる。カメラが向かうのは、大都市の裏町も裏町。およそ観光客は近寄れないような街の、その中でも特にディープな常連が集う店にカメラが潜入する。

NHKオンラインの番組ホームページには、以下のような言葉が記されている。

「地元の人しか知らないディープな名店を紹介する番組です」

「世界のどこでも、いい居酒屋は必ず、入りにくいオーラを出しまくっている。観光客向けのオープンな店とは大違い」

世界各地にある酒場の店主や客たちのドキュメンタリーを観ながら、家呑みをする。これが妙に楽しくてやめられない。そんな人が、日本国内で増えているに違いない。

番組のタイトル画像(写真提供:NHK)

なぜ支持を受けているのか。不思議な魅力の本質に、プロデューサーのインタビューを通じて迫る。

徹底した一般人目線でディープな居酒屋に潜入する

「気楽に観ることができて、家で独りでも、番組と一緒に飲める。そんな風に楽しんでもらえたらと思って作っています」

そう語るのは、プロデューサーの河瀬大作さん。NHKのドキュメンタリー畑を長く歩き、『プロフェッショナル 仕事の流儀』『クローズアップ現代』など、国民的人気を誇る番組でキャリアを積んできた。

プロデューサーの河瀬大作さん

そんな河瀬さんをして、世界のディープな居酒屋は、これまでに取材した人や場所とは異なる取材対象だったという。

「この番組は、企画段階では、『世界バル紀行』という、いかにもNHKらしい名前だったんです(笑)。でも、世界の『入りにくい居酒屋』ってタイトルが生まれた時点で、企画の方向性が決まったんだと思うんですよね。独特の“ゆるさ”を持った、従来のドキュメンタリーとは全く違う文法でつくるものになったというか。当たり前のアプローチでは、人と場所の魅力を表現できないというか(笑)」

番組に登場するのは、極めて人間臭い人たちばかりだ。仕事中なのに昼から飲んでしまう人、客以上に酒を飲み楽しくなって歌いだす店主、酔って抱き合う人、踊る人、酔ったまま工房に戻り結局大して仕事にならない職人など。

「普通の人が飲み屋で話している、そんな雰囲気を大事にしたいと思っています。だから説明も減らしたりしています。例えば、ニューヨークのエンパイアステートビルに、あえて“有名なビル”ってテロップしてみたり。かなり雑ですよね(笑)。でも、そのテロップを見て、あれエンパイアステートビルだよね?って会話が見ている人たちの間に生まれるといいかなと」

上から説明を押し付けない。そんな徹底した一般人の目線だからこそ、カメラが捕まえる映像は、面白い。

「この番組の特徴は、お客さん(視聴者)が熱いことなんです。12月の時点で、Facebookページの参加者が1万なんです。それなのに、番組関連の投稿を一度すると、多いときには「いいね!」が2000もついちゃう(笑)。相当に能動性の高い人が見ているようです」

それほどまでにファン(視聴者)の心を熱くさせる、『世界入りにくい居酒屋』の魅力は何なのか?