国内外の投資家は、日本のコーポレートガバナンスの変革を求めている。伝統的体制をどう変えていくか、具体策を示す。

黒田 一賢/日本総合研究所 創発戦略センター スペシャリスト

 2015年頃から日本でもコーポレートガバナンス改革が大きく加速した。同年は、コーポレートガバナンス・コードが施行され、世界最大の公的年金である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が「責任投資原則(PRI)」に署名を果たし、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の拡大を明確に宣言した年である。

 筆者は日頃、環境・CSR関連部署の担当者からコーポレートガバナンスの在り方について多岐にわたる質問を受ける。体系的に全体像を捉える機会が限定されているとの声も多い。本稿ではコーポレートガバナンスと伝統的なCSRとの関係、日本企業の取り組みの現状、海外運用機関の見方、企業における実務での適用の方向性について述べたい。

企業戦略の中核に位置付けよ

 コーポレートガバナンス・コードでは、「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」と、コーポレートガバナンスを定義している。

 前半の「顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえ」の部分は伝統的なCSRにおいても考慮されていた部分で、なじみがあるだろう。一方、注目すべきは同コードの副題である「会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために」であろう。

 伝統的なCSRでは、どちらかと言えば、「企業市民としての責任」とも呼ぶべき、「倫理面、もしくはそれを適切に果たさなかった場合のレピュテーション(評判)の毀損」が重視されてきた印象がある。

 これに対し、コーポレートガバナンス・コードでは、ステークホルダー(利害関係者)に対する配慮について、伝統的なCSRを排除するわけではないものの、企業戦略の一部として能動的に対処すべきという側面が強調されている。

 それはコードの【基本原則2】「考え方」に記された、「上場会社が、こうした(ステークホルダー配慮)認識を踏まえて適切な対応を行うことは、社会・経済全体に利益を及ぼすとともに、その結果として、会社自身にも更に利益がもたらされる、という好循環の実現に資するものである」という文面にも反映されている。

 ここで言う「会社自身にもたらされる利益」とは、伝統的なCSRで重視された非財務的な便益ではなく、財務的な利益である。すなわち「収益機会の獲得や、リスクマネジメントという経営の中核において、ステークホルダーに対する配慮を統合せよ」というのが、コーポレートガバナンス・コードのメッセージなのである。

 このコーポレートガバナンスの定義は比較的新しく、広義のコーポレートガバナンスとも呼ぶべきものである。伝統的、または狭義のコーポレートガバナンスでは企業の経営陣は出資者である株主の代理として資本生産性の向上、企業収益の最大化に努力しなければならないとされてきた。

■ 広義と狭義のコーポレートガバナンス
出所:日本総合研究所

 株主の視点からは、自らが拠出した資金を効率的に投資し、株価上昇や配当増額などに積極的な企業が魅力的に映るというものだった。

 ところが今、狭義のコーポレートガバナンスは2つの点で修正を余儀なくされている。