聞き手/田中 太郎(日経エコロジー編集長)

社会課題を企業人に体感させるプログラムを実施。中長期の展望を描くため参加する企業が増えているという。

小沼 大地(こぬま・だいち)
1982年神奈川県生まれ。一橋大学在学中に青年海外協力隊に参加しシリアへ。一橋大学大学院修了後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、2011年に特定非営利活動法人のクロスフィールズを創業
写真/鈴木 愛子

――企業の幹部社員がインドのムンバイやバンガロールを視察して、現場の社会課題を「体感」するフィールドワークが明日(2018年1月21日)からスタートします。

小沼 大地氏(以下、敬称略) ホンダやNTTドコモなど7社から13人の方が参加します。部長や課長といった管理職が多いです。プログラムに参加するには渡航費、宿泊費を除いて80万円程度の費用がかかりますが、ほとんど販促をせずすぐに定員が埋まりました。中には1社から5、6人参加させたいという企業もありましたが、12人の定員を想定していたのでお断りさせていただいたほどです。3年前にも同様の企画を考えたのですが、参加者が集まらずにとん挫しました。今回は本当にびっくりです。

企業は中長期展望を求めている

――どんな変化があったのでしょう。

小沼 3年前よりも景況が良いということもあるのでしょうが、まず変化の激しい時代なので長期的な展望を描くことに投資をしようという企業が増えています。2つ目はSDGs(持続可能な開発目標)が広まったことで、何か変革を起こしたい、イノベーションのためにSDGsを使いたいという企業の要望があります。3つ目はタイミングです。これまで中長期の経営計画をつくる際に東京オリンピックがある2020年を想定していた企業が多かったのですが、2020年が目の前に迫り、短期になり過ぎたこともあるのではないでしょうか。「ちょうど2030年に向けた検討をしているので、タイミングが良かった」という声を多く聞きました。この流れはしばらく続くと思います。

――SDGsもパリ協定の目標も2030年がポイントになっていますからね。

小沼 今まで、若手社員を新興国に派遣する「留職」プログラムでは人事部とのお付き合いが多かったのですが、この頃は経営企画や新規事業開発を担当する方からのお話が多くなっています。

――SDGsは世界の社会課題を整理していますが、それらをビジネスを通じて解決することが企業の成長につながるといわれています。

小沼 企業のトップはSDGsやCSV(共有価値の創造)を進めたいと言っているけれど、現場の人たちは実際にどのように事業に結び付ければよいのか分からず、模索している段階ではないでしょうか。事業のあり方を変えていく作業ですから、経営企画が担当しているのだと思います。ただ、市場規模予測などのマーケットデータから考えると、計画は小さくまとまってしまい、「想い」ものせられません。今回のフィールドワークは社会課題を現場で「体感」してもらうことをキーワードにしています。「この課題を解決したい」と参加者に一人称で思っていただくことが狙いです。「未来を予測するよりも、直感的に『こういう世界をつくりたい』と腹落ちして帰ってきてください」とお伝えしています。

――将来の方向性を学ぶというよりも、マインドセットを変えることが重要なのですね。どのような現場を視察するのですか。

小沼 ソーシャルベンチャー(社会課題の解決のために起業したベンチャー)に投資しているベンチャーキャピタル(VC)やスラムでコミュニティーを運営している団体、あるいは先進的な技術でゴミをリサイクルしているプラントなど7カ所を訪問します。例えば、インドは病院が少ない農村部の人口が多いため、規制が厳しくないこともあって日本よりも遠隔医療が発達しています。そうした最前線の現場を見てきます。

――ソーシャルベンチャーに特化したVCですか。

小沼 はい。300億円規模のファンドを集めていて、利回りは年20%ぐらいあるそうです。

――どのようにして訪問先を選んだのですか。

小沼 今回はホンダとNTTドコモの2社に幹事になっていただき、ディスカッションしながら選びました。最初に「モビリティ」や「福祉」「通信」などのテーマを決め、それを基に我々が候補をリストアップして、そこから絞り込みました。

――クロスフィールズが最初に手がけた「留職」は、企業の若手社員を新興国の企業やNPOに派遣して、現地の社会課題を解決するプロジェクトをやり遂げるというプログラムですよね。

小沼 2011年の創業から7年弱で、35社から約130人の方をアジア10カ国に派遣してきました。見えてきたのは、企業と社会課題の現場を結び付けるこの事業に対して、底堅いニーズがあることです。まだ我々の取り組みが足りていないと強く感じています。

――2017年10月のメディア懇談会で、「組織リーダータイプ」「グローバルタイプ」「事業創出タイプ」の3つに分けて留職者が帰国後どのように活躍しているのかを分析していました。発酵調理器具を開発したパナソニックの方はメディアでも紹介されていますが、「事業創出タイプ」ですね。

小沼 そうですね。留職プログラムの成果は、現地に貢献することも1つですが、参加された方が帰国してからどう活躍するかが重要です。ただ、人によって結果は違い、留職の経験を生かして企業の中ですごく躍動されている方とそうでない方がいます。その差はどうして生まれるのか初期的な調査をしたところ、当たり前ではありますが、参加された方が職場からどのような期待値を持たれて働いているかがすごく大きく影響することが分かりました。であれば、我々が次にやることは、企業としての期待値を左右する経営層や管理職に向けて「留職で獲得した世界観を生かせるように後押ししてほしい」というメッセージを送ることだと考えました。そこで企画したのが、今回のインドへのフィールドワークです。

――江崎グリコの幹部社員がフィールドワークを行ったこともあるそうですね。

小沼 1年ほど前に幹部社員がフィリピンとベトナムにそれぞれ10人ずつ社会課題の視察に行きました。我々が提供しているフィールドワークには、個別企業や複数の企業で実施するものがあり、海外だけでなく、国内でやるものもあります。複数の企業で海外に行くのはインドが初めてです。

2012年に日本初の留職プログラムの派遣者としてベトナムで活動したパナソニックの社員(左上)。貧困層・女性の雇用創出と家計向上を支援するカンボジアの社会的企業に派遣された100人目の留職者(下)。2018年1月に実施したインドで社会課題を体感するフィールドワークでスラムを訪問。参加者から「スラムの子どもたちがイキイキしていて驚いた」との声も(右上)