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インタビュー

2017年3月13日

NPO法人小網代野外活動調整会議代表理事 慶應義塾大学名誉教授・岸 由二氏「都市近郊の奇跡の自然 活用してこそ守れる」

聞き手/田中 太郎(日経エコロジー編集長)

神奈川県の三浦半島にある奇跡の自然「小網代の谷」の保全に取り組む。都市の近郊にある自然は「みんなが儲かる」ように使ってこそ守れると説く。

岸 由二(きし・ゆうじ)
1947年東京都生まれ。横浜市立大学文理学部生物科卒業。東京都立大学理学部博士課程修了。理学博士。専門は進化生態学。著書に『「奇跡の自然」の守りかた 三浦半島・小網代の谷から』(ちくまプリマー新書)、共訳書にドーキンス『利己的な遺伝子』(紀伊國屋書店)など。NPO法人小網代野外活動調整会議代表理事とともにNPO法人鶴見川流域ネットワーキング代表理事を務める
写真/鈴木 愛子

――著書の『「奇跡の自然」の守りかた』を読み、岸先生たちが30年にわたり保全に取り組んできた三浦半島の「小網代の谷」を歩いてきました。都心から2~3時間で行ける場所に別世界が広がっていますね。まず、「奇跡の自然」といわれる理由を教えてください。

岸 由二氏(以下、敬称略) 自然保護に取り組むときにどういう地域を選ぶのかは、なかなか難しい問題です。(1)絶滅危惧種のような貴重な生物がいるから守りましょう、(2)原生の自然があるから手をつけずに残しましょう、(3)いい里山だから残しましょう─という大きく3つが一般的な基準になっています。

 小網代は、いわゆる里山イメージの里山ではありません。手つかずの自然かというと、地形は手つかずで残っていますが、50年前まで田んぼや畑、薪炭林として使われていた所で、原生の自然ではありません。希少種がいるかというと、いないわけではないけれどよそと大して変わりません。テレビ番組で報道されアカテガニが有名になりましたが、どこにでもいるカニです。どの基準から見ても大したことないのです。だから、多くの人たちがすごい所だとは思っていませんでした。

「流域が丸ごと」が重要

――岸先生はなぜすごい所だと思ったのですか。

 川の源流から河口までの流域生態系の「器」が自然のままなのです。流域が丸ごと残っている。そういう場所は他にないです。空中写真で関東・東海地域を調べると、道路や住宅に遮断されずに源流から河口まで残っているところは他にありません。日本全国を調べてもそんなにないだろうことも予測がつきました。そこで「流域丸ごとの生態系を残せる関東唯一の場所」ということを行政や学術世界へのアピールにしました。

 そこにある生態系や自然の中身については、器が保全できればいかようにも回復できるし、創出できるという自信がありました。とにかく水循環の単位としての流域を残しましょうという方針で保全に取り組み始めました。この考え方は、かなり早い段階で行政には理解してもらっていました。

 保全が進んだのは、関係者の連係プレーで2005年に「首都圏近郊緑地保全法」による「近郊緑地保全区域」の指定を国土交通大臣から受けたことが大きいですね。

 しかし、それが議会や自治体の首長の判断になるかは別問題です。議会で支持されなければ保全のための予算は付きません。そこは最初から分かっていたので、一般に理解してもらうために別のアプローチで小網代の貴重さをアピールしました。それがアカテガニです(下の写真参照)。「アカテガニは森で暮らして、干潟でお産して、海で育って、また干潟に帰ってきて森で暮らすんだよ。アカテガニの国である小網代の森を守ろうね」と訴えたわけです。

都市近郊の三浦半島に残された軌跡の自然、小網代の谷の全景(左上)。広さは70haほど。湿地には木道が整備され(左下)、河口の干潟にはアカテガニなどの生物が生息する(右上)。5月にはホタルが乱舞する姿も見られる(右下)
写真提供:NPO法人小網代野外活動調整会議
撮影協力:神奈川県立青少年センター(空撮)

――なぜ流域丸ごとが重要なのですか。

 流域とは大地の“細胞”のようなもので、環境の基本単位です。水に関する環境管理、生物多様性の管理は流域を単位に実施した方がよいのです。小網代では、流域で考えればいかに生物多様性が総合的に守れるのかを実証する場所です。なおかつ流域を学ぶための良い教材にもなります。小網代の川は1kmほどですが、40倍すると鶴見川、120倍すると多摩川です。小網代でこうした巨大流域のことも体感的に分かるようになります。実は、生物多様性だけではなく、水害に対する防災の教育にも生かしています。

――防災を学ぶということは、水害に強い谷をどうつくるかということですか。

 いいえ、小網代では逆にどんどん洪水が起こるようにしています。人間は洪水があると困るから、洪水が起こらないように河川を管理します。しかし、小網代の谷には人は住んでいません。逆に洪水をなくしてしまうと外来植物の巣窟になってしまいます。だから、洪水を起こして湿原にしなくてはなりません。小網代ではあらゆるところで洪水を起こし、外来植物を水没させているわけです。通常の流域管理とは逆をやっています。

――洪水が起こるとどんな状況になるのか学べる教材にもなるわけですね。

 そうです。

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