聞き手/田中 太郎(日経エコロジー編集長)

2017年、創立100周年を迎えた。次の100年も、良い商品を創り、息長く市場に根付かせて、成長し続ける。

喜多村 円(きたむら・まどか)
1957年福岡県生まれ。81年長崎大学経済学部卒業、東洋陶器(現TOTO)入社。執行役員経営企画部長、取締役専務執行役員システム商品グループ担当などを経て、2014年4月から現職
写真/鈴木 愛子

――2017年は創立100周年でした。

喜多村 おかげさまで100周年を迎えました。ぼくは何が一番誇らしいかと言うと、社員が自分の会社に誇りを持ってくれていることです。

――どんなところで感じますか。

喜多村 社外の会合などで、「TOTOの社員は本当にTOTOが好きだよね。TOTOの商品が好きだよね」と言われます。社長として本当に嬉しいです。

「買って良かった」を作るのがメーカー

――企業が長期的に成長するには何が重要ですか。

喜多村 ぼくはシンプルに考えています。そもそもメーカーとは、生活の役に立つもの、みんなが好きになるものを作るからメーカーです。IT(情報技術)などで効率化が進んでいくのだろうけれど、人間が使う以上、効率だけでなく癒しや安心感、見た目の美しさも含めてお客さんが「これ買って良かった」と思えるものを作るからこそメーカーだと考えています。コモディティ化した商品ならば、なるべく安く作って多くの人に使ってもらうことを目指す会社があってもいいと思います。しかしTOTOはそうではなくて、ウォシュレットや新しい洗浄方式など、世の中にはない便利で満足感の高い商品を生み出してきた会社です。その第一人者であり続けたいと思っています。

――節水に力を入れてきました。

喜多村 節水もそうですし、掃除のしやすさだったり、汚れの付きにくさもあります。例えば、(水流が渦を巻く)トルネード洗浄を生み出したのはTOTOです。この方式は何が良いかと言うと、音が静かで、少ない水でも汚れがしっかり落ちます。

 もちろん節水は、世界の人口が増えていく中で、限られた水をどうやって大事に使うかという観点で非常に重要なキーワードです。2014年にインドに工場を造った時にも、節水で国の発展に寄与できると判断して進出しました。これから下水道が普及していく中で、従来の8ℓや12ℓといった便器ではなく、半分以下の4ℓの水で、なおかつ静かでにおいもしない便器が普及すれば、インフラ投資が少なくて済みます。

■ 便利で満足感の高い商品を生み出し2017年に100周年を迎えた
1914年に国産初の腰掛式水洗便器を開発(左上)。その後17年に東洋陶器(現TOTO)を創立した。100周年に当たる2017年に発売した「ネオレストNX」はデザインが洗練され、便器の進化が見て取れる

――新しい技術の開発と海外市場の開拓がこれからの成長要因ですね。

喜多村 そうですね。ただ、いたずらに売り上げを増やすだけではなく、その地域に根差していきたいと考えています。TOTOの商品は、実は商品のサイクルが非常に長く、便器を一度買ったらおそらく20年は使われます。その間、不便な思いはさせたくないですし、TOTOを買って良かった、次もTOTOにしようと思ってくれる人を増やしていくことが、結果的に次の100年を生き残る大前提になると思っています。だから、品質には絶対のこだわりを持っています。(インド市場開拓のために)現地企業を買収しないのかと聞かれますが、それは考えていません。TOTOの商品を買う人は最初は少ないかもしれませんが、豊かになってくれば節水や静かさを求める人たちが生まれてくるはずです。そういう人たちにしっかりアピールしていこうと考えています。

――短期間でのシェア獲得は狙わないのですね。

喜多村 経営者である以上、売り上げと利益を伸ばしたいですから、短期間でできればそれにこしたことはありません。しかし、現地のメーカーを苦しめてまで売り上げを伸ばしても意味がないと思っています。自分たちはコモディティ化を避けていく戦略で良いものを生み出してきました。結果的にそれが市場で認められればファンは減らない。そういう思いで100年やってきたので、それは変えたくはありません。良いものを創り続ける情熱を持ち、技術革新を進めていかなければなりません。その意味では、自社内だけでなく、世界中のベンチャーを含めていろいろな企業とタイアップしながら、お客さんからより求められるもの、買って本当に良かったと思えるものを生み出していきたいと考えています。

――ベンチャー企業との提携を進めているのですか。

喜多村 ビジネスモデルイノベーション(BMI)というプロジェクトを作り、若い世代の開発者を中心にベンチャーの技術について議論を進めている最中です。

――「これは」というものは見つかりましたか。

喜多村 一つひとつの技術はなかなか商売のレベルまでになるものはないのですが、いくつかを組み合わせればうまくいくかもしれません。例えば便から、がんの可能性を探れる技術などを研究しています。

――がんの可能性ですか。

喜多村 一人ひとりのデータからはなかなか読み取れないけれど、データが膨大な量になると一定の傾向が読み取れる可能性があります。例えば「10ある要素のうち、この4つが重なるとこんな可能性が高まる」といったことが見えてくる。そんな研究をしています。

――オープンイノベーションで技術を取り込んでいくんですね。

喜多村 今まではどちらかというとハードだけでサービスや技術が進歩できたけれど、今後はソフトと組み合わせた新しいビジネスモデル、ソフトと組み合わせた快適さが必要になってくると思います。世界中のベンチャーがいろいろな分野で開発に取り組んでいます。自分たちの知見だけでは多分、それより狭い範囲でしかできないでしょう。