取材・構成/小林 佳代

 2018年2月20日、日経BP ESG経営フォーラムが4月に発足したのを記念して「ESGで会社を強くする」をテーマにシンポジウムを開催した。ESGで先行するコニカミノルタ、三菱ケミカルホールディングス、丸井グループの3社のトップが自社の取り組みを紹介した。
 さらに、ESG投資を本格的にスタートさせた年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の髙橋則広理事長がESG投資の考え方を解説。「伊藤レポート2.0」で有名な一橋大学大学院商学研究科特任教授の伊藤邦雄氏が、なぜESGへの取り組みが求められるかを語った。
 今回は、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)理事長 高橋 則広氏の講演を紹介する。

160兆円を超える運用資産を持つ年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は近年、ESG投資を本格化させている。高橋則広理事長は「一時のブームに終わらせず、じっくり成果を出したい」と力強く語った。

 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は厚生年金と国民年金の積立金の管理・運用を行っています。

 運用資産額は2017年12月末で162兆7000億円です。基本ポートフォリオは国内債券35%、国内株式25%、外国債券15%、外国株式25%。債券の利息、株式の配当で毎年、2兆〜2兆5000億円のキャッシュが入ります。その累積額は30兆円に達します。

 かつては国債利息がインカムゲインの中心でしたが、今は株式配当が半分以上を占めます。企業経営の成果を年金の充実に役立てている格好です。我々の立場からすれば、企業活動がサステナブルで、最終的に配当をしていただくのがいちばん望ましいといえます。

 GPIFを表すキーワードは2つ。1つは「ユニバーサル・オーナー」です。ユニバーサル・オーナーとは広範な資産を持つ資金規模の大きい投資家のこと。GPIFは内外5000社近くの株式を持っています。幅広く分散して運用していますから、企業活動全体がうまくいけば、我々も全体として利益を受けられます。

 もう1つのキーワードは「超長期投資家」。株価が安い時に買い、高い時に売るというのではなく、ずっと所有し続けて経営が良くなるのを待つスタンスです。一部の企業が環境や社会にダメージを与えて他の企業の収益の犠牲の上に一時的に高い収益を上げたとしても、GPIFの利益にはなりません。企業社会全体がより付加価値をつけることを目指してほしい。年金財政の一翼を担うGPIFにとって、ESG投資の必要性は高いのです。

投資原則に「ESG」盛り込む

 今、世界的に長期投資の世界では「サステナビリティー」と「インクルーシブネス」がキーワードとなっています。

 かつて、日本企業は従業員や顧客、取引先への目配りが中心で株主への配慮が少ないと言われていました。一方、欧米企業は株主至上主義とされ、株主にさえ貢献できればいいという面がありました。両者には大きな開きがありましたが、今は日本も海外も、幅広いステークホルダーと協働し、資本主義経済、社会を持続可能なものにしようという方向に収斂しつつあります。

 こうした潮流に沿い、GPIFは2017年、憲法ともいえる投資原則を改定しました。「スチュワードシップ責任を果たすような様々な活動(ESGを考慮した取り組みを含む)を通じて被保険者のために中長期的な投資収益の拡大を図る」と、ESGという文言を盛り込みました。

 GPIFは法律で直接株式を持つことは禁止されているため、すべての株式投資を外部の運用会社に委託しています。運用会社には、運用プロセスの中で投資先企業と対話し、ESGを考慮した投資をするよう求めています。また、企業とアセットオーナーとが意見交換を行うフォーラムなどに参加し、投資先企業とESGについて意見交換を行っています。

 企業の方にお願いしたいのは、統合報告書の作成に力を入れること。統合報告書は投資家との対話のベースになります。GPIFのホームページでは、国内株式運用を委託している16の運用会社が選んだ「優れた統合報告書」「改善度の高い統合報告書」を公開していますので、参考にしてください。

 ESGは一時のブームに終わらせるのではなく、継続的に取り組むことが重要です。我々も運用会社などに対して粘り強く働きかけ、漢方薬のようにじっくりと成果を出したいと思っています。