取材・構成/小林 佳代

 2018年2月20日、日経BP ESG経営フォーラムが4月に発足したのを記念して「ESGで会社を強くする」をテーマにシンポジウムを開催した。ESGで先行するコニカミノルタ、三菱ケミカルホールディングス、丸井グループの3社のトップが自社の取り組みを紹介した。
 さらに、ESG投資を本格的にスタートさせた年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の髙橋則広理事長がESG投資の考え方を解説。「伊藤レポート2.0」で有名な一橋大学大学院商学研究科特任教授の伊藤邦雄氏が、なぜESGへの取り組みが求められるかを語った。
 今回は、一橋大学CFO教育研究センター長 一橋大学大学院商学研究科特任教授 伊藤 邦雄氏の講演を紹介する。

企業価値を持続的に向上させるには、「稼ぐ力」を高めることと同時にESGに対応することが不可欠。伊藤邦雄教授はガバナンス改革の文脈の中に位置づけられるESGの本質を説明した。

 この数年、企業価値の持続的な成長を目指したガバナンス改革や市場改革が進んでいます。

 私は経済産業省のプロジェクトとして2014年にまとめた「伊藤レポート」の中で、企業が「稼ぐ力」を高めること、そのような企業への投資により中長期的に収益を生み出すインベストメント・チェーンを循環させることが重要であることを指摘しました。企業はROE(自己資本利益率)8%以上を目指すべきと提唱し、その後、実際に8%を達成する企業が増えるなど、日本企業のROEは上昇傾向にあります。

 企業価値の持続的な成長のためにもう1つ不可欠な要素がESGです。アセットオーナー、機関投資家、企業の主要3プレーヤーが対話し、エンゲージメントを結びながらESGへの対応を進めることが求められます。今、対話・エンゲージメントのケイパビリティーは資本市場での企業の評価を左右し、企業価値に重大な影響を及ぼします。情報開示と対話と経営力がつながる時代です。

ESG対応は経済合理性がある

 ESG重視の流れが出来たのには理由があります。第1は国連が2015年に「持続可能な開発目標(SDGs)」を採択し企業に取り組みを促したこと。第2は企業価値を決める主要因子が工場・設備等の有形資産から人材・技術・ノウハウ・ブランドなどの無形資産へ移行したこと。第3はサステナビリティーを重視する長期投資家のプレゼンスが増大したこと。第4は企業と投資家で成り立っていたインベストメント・チェーンに社会が加わるようになったこと。社会は企業に対してESGへの対応を期待・要請し、その意向を受けた投資家は、企業との対話の中でESGに関心を寄せたりプレッシャーをかけたりするようになっています。

 「コーポレートガバナンス・コード」「スチュワートシップ・コード」とも、企業や機関投資家が社会・環境問題などサステナビリティに配慮すべきと明示しています。2017年7月、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が日本株の3つのESG指数を選定して投資を始めたことは大きな話題となりました。

 ESG対応を進める企業は不祥事・訴訟などマイナスの出来事が起こりにくく、値動き幅のリスクが減るのでリスク調整後のリターンを改善する効果が期待できます。ESGに配慮した企業に投資することは経済合理性のある行動といえます。

 既にESG経営で強い印象を残す企業も出てきています。

 住友化学は独自技術を活用し長期残効型の蚊帳(かや)「オリセットネット」を開発しました。マラリア予防に効果があるオリセットネットは投薬や噴霧などの対策と合わせ、2000年以降、累計620万人の命を救ったと推定されています。

 TOTOの創業者・大倉和親は2代目社長にバトンを渡す時、「どうしても親切が第一。奉仕観念を持って仕事を進めてください」と記した書簡を送りました。経営者の言葉としては極めて特徴的です。TOTOは中期経営計画で全世界共通の環境ビジョンを設定するなど、創立時からの思想をESG経営につなげています。

■ 目指す経営(者)の姿
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