藤田 香、半澤 智

ESG情報開示の動きが国内で急拡大している。しかし、欧米主導で作られたルールに日本企業はうまく対応できていない。

 2018年3月20日、富士通は投資家向けに「ESG説明会」を開催した。証券会社や投資信託会社などから約50人が同社の会議室に集まった。その約3割が、ESGに関連した肩書きを持つ投資担当者だ。

 説明会ではまず環境・CSR本部の金光英之本部長が富士通の再生可能エネルギーや省エネの取り組み、社会課題解決につながるビジネスの例などを紹介し、参加者からの質問を受け付けた。「環境活動にかかるコストは」「2050年目標を達成するための中期のKPI(重要業績評価指標)は」「ライバル企業と比べて再エネ導入率が低くないか」といった質問が飛んだ。

富士通は3月20日に投資家向けのESG説明会を開催した

 「IR活動の究極的な目的は、長期投資をしてくれる安定株主の確保にほかならない。ESG情報を積極的に発信し、長期かつ安定的な投資を呼び込みたい」。広報IR室IRグループの池田仁シニアマネージャーは、この会の目的を説明する。

 同社は2016年から毎年ESG説明会を開いており、2018年は3回目となる。「最初はわずか数人だった参加者は年々増えている。投資家側のESGに関する関心は確実に高まっている」と池田シニアマネージャーは話す。

 ESGの取り組みをきちんと投資家に伝えたいと考えているのは富士通だけではない。オムロンや味の素、コマツ、NEC、三菱マテリアル、丸井グループなど、ESG説明会を開催する企業が相次いでいる。財務情報とともにESG情報を開示する統合報告書を発行する日本企業は約350社に達し、欧米各国を凌駕する。

情報開示の圧力高まる

 背景には、企業にESGの取り組みを求めるESG投資が無視できない存在となってきたことがある。2006年に国連の呼び掛けで責任投資原則(PRI)という持続可能な社会を構築するための投資家のイニシアティブがスタートしてから12年。ESG投資は急拡大した。世界サステナブル投資連合が2年に1度、ESG投資とほぼ同義であるサステナブル投資の残高を調査、公表しており、2016年の世界のESG投資残高は22兆8990億米ドル(約2400兆円)に達する。

■世界のサステナブル投資の残高
出所:世界サステナブル投資連合

 後を押したのは2008年のリーマンショックをきっかけに起こった世界的な金融危機だ。ショートターミズム(短期主義)に陥った資本市場の失敗だという反省から、企業の長期的な成長を基準にするESG投資が急増した。こうした投資家たちが、投資先の企業に対してESG情報の開示を求めている。

 例えば、気候変動に関する情報開示では2017年6月、世界の金融当局で構成する金融安定理事会(FSB)の「気候関連の財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)」が、気候変動による財務リスクを開示する方法を盛り込んだ提言を発表した。今後、気候変動の事業への影響を把握し、対応策を企業に開示するように要請する動きが加速する。

 資産運用額が670兆円を超える大手運用機関、米ブラックロックのラリー・フィンク会長兼CEOが毎年1月に投資先に送る書簡は象徴的だ。2018年1月も、約450社の日本企業を含む投資先に「企業が継続的に発展していくためには、業績のみならず社会にいかに貢献していくかを示さなければならない」と呼び掛けた。

 国内では2017年7月、世界最大の機関投資家、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が日本株の3つのESG指数を選定して本格的なESG投資を開始したインパクトが大きい。法律によって直接株式を持てないGPIFは、委託先の運用機関に「投資先の企業と対話しESGに配慮して投資するように求めている」(高橋則広理事長)。

 世界的なESG重視の流れを受け、経団連は2017年11月、企業行動憲章を7年ぶりに改定し、「ESGに配慮した経営の推進により、社会的責任への取り組みを進める」と明記した。

 企業と投資家の双方がESGを軸に一斉に動き始めた。持続的な成長を目指す企業とそれを求める投資家は、好ましいタッグチームといえる。企業にとっては社内にない視点で経営を見直す契機になる。だが、現時点ではまだ機能しているとは言いがたい。

 「日本的経営はESG投資家から理解されないのか」

 2017年7月に開かれた企業経営者とGPIFの意見交換会では、「日本的経営」に対する質問が経営者から相次いだ。