半沢 智

個人や企業が手軽に電力を売買できるシステムを可能にする。再エネ普及とCO2削減の「秘策」として、国や電力会社が動き出した。

 ビットコインなどの仮想通貨で使われている「ブロックチェーン」技術の活用が、環境やエネルギー分野に広がっている。電力や野菜のサプライチェーン管理で利用が始まった。

 ブロックチェーンは、複数のコンピューターにデータを分散して記録する技術で「分散型台帳」などと呼ばれている。通常のシステムは、1カ所にデータを集めて管理するが、ブロックチェーンはインターネットを通じてデータを複数のコンピューターに保存し、コンピューター同士がデータが正しいかを監視し合う。

 特徴は大きく2つある。1つは、データが分散保存されているため、改ざんが難しいという点である。もう1つは、巨大なサーバーでデータを管理する必要がないため、システムの導入費や維持費を安く抑えられる点である。

67兆円市場に国も動く

 経済産業省は、ブロックチェーンを活用したビジネスの潜在的な国内市場規模を67兆円になると試算しており、金融分野をはじめ製造、流通、医療など幅広い分野で活用が進むと予想している。

 エナリスは、2017年6月から福島県内の最大1000戸を対象として、ブロックチェーンを活用したデマンドレスポンスの実証実験を進めている。家庭にコンセント型のスマートメーター(次世代電力計)を設置し、家庭の電力データをブロックチェーンに記録する。ブロックチェーンを構成するのは、インターネットに接続した複数台のコンピューターだ。いつ、どの機器が、どれだけの電力を消費したかという情報を逐次記録していく。コンセント型スマートメーターは赤外線を送受信する機能を内蔵しており、電力のひっ迫時に家電を操作して電力消費を抑える。

■ エナリスがブロックチェーンを電力ビジネスに活用
福島県内で実証実験を開始。家庭のコンセントにコンセント型スマートメーター(右)を設置し、電力データをブロックチェーンに記録する
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 2018年2月からは、高齢世帯を対象とした見守りサービスの実験も開始した。エアコン、炊飯器、ポットなどにコンセント型スマートメーターを設置し、これらの電力データをブロックチェーンに記録する。高齢者の在宅時間中に家電の使用状況が確認できないなど、日常とは異なる変化があった場合には、家族や自治体に連絡して対応を促す。

 エナリスはこれらの実証実験を通じて、ブロックチェーンの技術ノウハウを習得し、新電力向けにサービスを提供していきたい考えだ。

 実はこれらの実験は、電力分野におけるブロックチェーン活用の第一歩にすぎない。エナリス経営戦略本部の盛次隆宏・経営企画部長は、「将来的には、個人や企業同士が手軽に電力を売買できるシステムの構築を目指している」と話す。

 現在、家庭の電力データは、大手電力会社が収集している。家庭の売電先が新電力の場合、大手電力会社が収集した電力データを新電力に提供しており、必ず大手電力会社を介す必要がある。

 ブロックチェーンを活用すれば、これまで大手電力会社が一手に握っていた電力データの記録を別の仕組みに置き換えられる。家庭の太陽光で発電した電力を、電力会社を介さずに、手軽に取引できるシステムを作ることが可能になる。

 2019年から、固定価格買い取り制度(FIT)の適用期間が終了する家庭が出始める。今後、家庭で発電した電力を手軽に売買したいという需要が高まると予想される。

 東京電力ホールディングスも動き出している。2017年7月に、ドイツでブロックチェーンを活用した電力事業に取り組む独イノジーと組み、ノウハウの獲得に乗り出した。

 国もブロックチェーンの可能性に期待している。環境省は、2018年度予算に「ブロックチェーン技術を活用した再エネCO2削減価値創出モデル事業」を盛り込んだ。2018年2月に事業者の公募を締め切り、外部審査を経て採択する。実証期間は2018〜22年の5年間を予定している。