馬場 未希

日本で間もなく「非化石価値取引市場」が立ち上がる。再生可能エネルギーの新たな活用法を提示する制度にはどんなメリットがあるのか。

 再生可能エネルギーで作る電力を手軽に調達できる制度が今春始まる。日本政府が立ち上げる「非化石価値取引市場」がそれだ。企業はこの制度をうまく活用すれば、低コストで再エネを利用できるため、温暖化対策を進めやすくなる。

石炭火力もCO2ゼロ電源に

 世界のESG投資家は、重大な経営リスクである温暖化への対応で企業を評価する。企業は再エネを利用することで投資家にアピールできるが、割高なコストがネックだった。

 非化石価値取引市場について簡単に説明しよう。この市場で取引されるのは「非化石証書」と呼ばれるもので、発電時にCO2を排出しない「ゼロエミッション価値」を意味する。再エネの他、化石燃料を用いない原子力発電によって生み出される。例えば太陽電池で10kWhの電力を発電すると、10kWh分のゼロエミ価値が発生する。企業は、このゼロエミ価値を非化石証書という形で取引できる。

 非化石証書を実際に市場で取引するのは電力小売事業者で、電力と組み合わせて販売する。需要家である企業や家庭は、電力小売事業者を通じて間接的にゼロエミ価値を持つ電力を調達することになる。例えば、石炭火力で発電した10kWhの電力に10kWh分の非化石証書を組み合わせれば、それはCO2を排出しない「実質再エネ電力」として扱われる。

 では需要家である企業はどういう場面で非化石証書を活用できるのか。

 まず、温暖化対策推進法の温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度が挙げられる。同制度では排出量の報告を義務付けており、非化石証書を利用すれば排出量を減らせる。

 CDPの調査に対する回答にも非化石証書は使える。CDPは企業の気候変動への対応を調査・採点・公表している。CO2排出量は評価に影響するため非化石証書を活用して排出量を抑えれば評価の向上に結び付く。ただし、みずほ情報総研の中村悠一郎コンサルタントは「温対法とCDPとではCO2排出量の削減効果の算定方法が異なるので注意が必要だ」と指摘する。

 非化石価値取引市場が運用開始時に扱う非化石証書は、再エネ電力の固定価格買い取り制度(FIT)の認定設備が生み出すゼロエミ価値になる。政府は5月頃までにオークションを実施し、一番高い価格を提示した電力小売事業者が落札できる。

 オークションは3カ月ごとに実施する計画で、2019年度にはFITの対象ではない大型水力発電や地熱発電、原発の証書も販売する予定である。

■ ⾮化⽯価値取引の仕組み
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 非化石証書の平均価格は1kWh当たり1.3円程度になる見込みだ。石炭火力など発電コストが安い電力と組み合わせれば、産業用電力と同等の価格で需要家に提供できそうだ。需要家は非化石証書の活用で、自社の投資により再エネ設備を導入するよりもコストを抑えられる。今夏以降、電力小売事業者が実質再エネ電力のメニューを発表する可能性がある。