独Volkswagenのモビリティ事業向け新ブランド/新会社「MOIA」の立ち上げ、ホンダとオンデマンド配車事業者のシンガポールGrabの戦略的パートナーシップ締結、米Google(グーグル)の自動運転プロジェクトを引き継ぐ新会社「Waymo」の設立――。2016年12月に発表されたこれらの企業活動は、それぞれ別のカテゴリーで起こっていることではあるものの、俯瞰すると自動運転車の登場で動き始めたモビリティ産業の構築に向けたうねりに見えてくる。

Waymoが開発した自動運転技術を実装したFCAのミニバン「Chrysler Pacifica Hybrid」(写真:FCA US)

オンデマンドのサービスビジネスをクルマで構築

これまで自動車産業は、自動車メーカーを中心とするサプライチェーンを構築し、売れる自動車を効率よく生産・販売することを競ってきた。しかし、今生まれつつある巨大なモビリティ産業のユーザーニーズは「自動車を所有すること」ではなく、「必要なときに自動車を使うこと」である。世界規模でのオンデマンド配車サービスの浸透は、その表れと言える。

多くの製造業が商品の「売り切り」から、商品が生み出す価値の対価を使用料として都度課金する「サービスビジネス」への転換を図っている。こうしたなか、自動車産業においては自動車が持つモビリティの価値を魅力あるオンデマンド型のサービスに仕立てる仕組みが求められている。

このオンデマンドのニーズに応えるには、魅力ある自動車を作ることに加えて、自動車を用いた魅力ある使い方を「モビリティサービス」として提案しなければならない。

2015年1月に米Ford Motorがモビリティサービスを新しい基幹事業にする事業構想「Ford Smart Mobility」を発表して以来、多くの自動車メーカーがモビリティ産業への本格進出をうかがっている。VolkswagenのMOIAブランドと同名の戦略子会社の新設は、そうした流れの一つである。自動車メーカーはどのようにモビリティサービスの開発を進めようとしているのか。その答えを知るために、2016年のFord Motorの活動を見てみよう。

テーマは「サービス開発」と「自動運転技術」

Ford Motorは2016年1月にモビリティサービスブランド「FordPass」を発表。続く3月にはモビリティサービス構想と同名の専門子会社「Ford Smart Mobility」を設立、5月にはクラウドベースのソフトウエア開発企業の米Pivotal Softwareに1億8200万ドルを出資し、モビリティサービスに関するソフトウエア開発の強化を図る。

さらに、7月には米マサチューセッツ工科大学(MIT)と協力して、モビリティオンデマンドを可能にするための需要予測の研究を開始した。9月にはFord Smart Mobilityが米国西海岸地域でオンデマンドの通勤用シャトルサービス事業を手がける米Chariotを買収。オンデマンド配車事業も手に入れた。

Ford Motorは自動運転技術の開発にも意欲的だ。2016年8月、2021年までにSAEレベル4相当の自動運転車(運転手が乗車することを前提とした完全自動運転車)の量産を開始することを宣言し、最初の開発ターゲットがオンデマンド配車サービス向け車両であることを明らかにした。

同時に、完全自動運転車の量産に向けて先進技術を持つ企業との協力関係を構築。具体的には、LiDAR(Light Detection and Ranging)開発企業大手の米Velodyne LiDARに7500万ドルを出資したほか、画像処理分野の人工知能(AI)ベンチャーであるイスラエルSAIPSを買収した。さらに、ディープラーニング技術を持つ米Nirenberg Neuroscienceとの間で独占的ライセンス契約を締結し、高精度の3次元デジタル地図作成技術を開発する米Civil Mapsに出資した。

続く9月には、自動運転車の研究開発を加速させるために、ミシガン大学との間で10年間に及ぶ提携を締結。2016年末までに多くのFord技術者をミシガン大学のNorth Campus Research Complex(NCRC)に送り出し、その後、ミシガン大学アナーバーキャンパスが2020年に設立する最先端のロボット工学研究室にFord Motorの研究者と技術者を集約する計画を発表した。

異分野の先進企業の力を借りる

Ford Motorは異分野の先端企業/専門組織の買収・出資・提携・協業などを進めることで、モビリティサービス開発と自動運転技術開発の体制を整えた(図1)。異分野の企業の力を借りて開発体制を整えるという手法は、他の自動車メーカーにも見られる。特に目立つのは、自動車メーカーからオンデマンド配車関連事業者へのアプローチである。

(図1)Ford Motorの協業・提携関係

例えば独Audiは、Audi車のレンタル事業を展開する米Silvercarに出資し、独BMWは投資子会社を介して米国でオンデマンド配車事業者である米Scoopと、カーシェアリングサービスにおける技術パートナーである米RideCellに出資。

米General Motors(GM)はオンデマンド配車大手の米Lyft(リフト)に5億ドルを、Volkswagenは同じくオンデマンド配車事業大手のイスラエルGettに3億ドルをそれぞれ出資した。また独Daimlerは、2014年に買収したオンデマンド配車事業者の独mytaxiと、英国、アイルランド、スペインなどでオンデマンド配車事業を展開する英国Hailoを合併して事業を統合した。これらはすべて2016年に起こったことであり、自動車メーカーがモビリティ事業を推進する体制作りを急いでいる様子がうかがえる。

自動車メーカーがオンデマンド配車事業に関心を寄せているのは、自動運転車の最初の大口市場がオンデマンド配車サービスと見られていることに関係している。例えばLyft共同創業者のJohn Zimmer氏は、2016年9月に自身のブログで「5年以内にLyftの車両の過半数が自動運転車になるだろう」と述べている。