JR山手線の中で海に最も近い駅、浜松町。臨海部にかけての一帯では、1980年代から90年代にかけて企業の本社ビル建設や竹芝ふ頭の再開発が相次ぎ、ウオーターフロントとして脚光を浴びた。そのまちで再び、大規模な開発事業が動き出している。このまちにどんな未来図を描けるのか――。起爆剤となる2つのプロジェクトを通して前・後編に分けて見ていこう。

見た目は、いつものマンホール。しかし災害が起きると、デジタルサイネージに早変わり。必要な情報を、迅速に伝えてくれる。そんな、先端のデジタル技術が社会に実装されたまちになっていく――。

東京・浜松町の海側一帯の未来図をそう描くのは、東急不動産都市事業ユニット都市事業本部ビル事業部事業企画グループグループリーダーの田中敦典氏だ。

同社ではいま、鹿島建設と共同で設立した事業会社、アルベログランデを通じて、「(仮称)竹芝地区開発計画」に取り組む。これが、浜松町を変える起爆剤の一つである。

開発区域は、東京都公文書館や計量検定所など公共施設の跡地約1.5ha(図1)。これらの跡地をアルベログランデが定期借地として借り上げ、業務棟と住宅棟という2棟のビルを建設する。延べ床面積は計20万㎡規模。2020年5月の完成を予定する(図2)。

(図1)「(仮称)竹芝地区開発計画」の位置図。東京都計量検定所と都立産業貿易センターの跡地であるA街区には業務棟を、都公文書館の跡地であるB街区には住宅棟を建設する(資料:東急不動産)
(図2)地上39階建て業務棟の外観イメージ。地上5階までの低層部には、都立産業貿易センター浜松町館の貸し展示室や貸し会議室などが設けられる(資料:東急不動産)

東京都が展開する「都市再生ステップアップ・プロジェクト」と呼ばれる公民連携事業の一つ。羽田空港に近い立地特性やコンテンツ産業の集積を生かし、国内外から企業の集積を図ることで、国際競争力の高いビジネス拠点の形成を目指す。都は2012年7月に事業者を公募し、2013年5月に東急不動産を代表とする企業グループを事業予定者に決定した。

この開発計画には起爆剤として3つの仕掛けが用意されている。

まずJR浜松町駅と業務棟の間、約240mを直結する歩行者デッキの整備である(図3)。デッキの全長は約700m。浜松町駅から向かうと業務棟のさらに先に位置する住宅棟や、ゆりかもめ竹芝駅、さらには竹芝ふ頭にも接続する。

(図3)歩行者デッキはJR浜松町駅と竹芝ふ頭を結ぶ。途中、業務棟や住宅棟とも接続。ただし、浜松町駅改札階への接続は駅改良工事が終わってからになる(資料:東急不動産)

浜松町という立地を田中氏は、「オフィスの集積はそう多くないが、山手線と東京モノレールの駅があり、交通利便性はほかのビジネスゾーンに比べ遜色はない。開発によって需要を創出できる可能性がある」と評価する一方で、課題をこう指摘する。

先端技術と既存産業のマッチングへ

「ただ臨海部にかけての竹芝エリアは、海岸通りや首都高速道路で分断されているため、オフィスの集積感に欠ける。ビジネスゾーンとしての評価は、いまはまだ低い」

そこで、海岸通りや首都高速道路をまたぐ歩行者デッキを整備することによって、利便性を高めるとともに、浜松町駅と竹芝エリアとの一体感をつくる狙いだ。

しかも、例えば北に伸びる汐留地区でもビル群は歩行者デッキで結ばれている。「それらのデッキともネットワークを築き、ほかの地区とも一体感を高めることで、オフィス集積を促し、竹芝エリアのポテンシャルをさらに高めていきたい」(田中氏)。

仕掛けは、ビジネス拠点の形成に向けたハードの施設整備にとどまらない。ソフトの運営体制づくりにまで及ぶ。

その一つが、研究開発、人材育成、起業支援、ビジネスマッチングなどの活動を担う組織の立ち上げだ。2015年4月には、事業者側の働き掛けで一般社団法人CiP(Contents innovation Program)協議会を設立し、理事長には慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の中村伊知哉氏が就いた。

期待する活動の一つは、先端のデジタル技術を持つ企業と既存の産業界とのマッチングである。協議会で開催する勉強会やシンポジウムなどがそれらの出会いの場として機能し、新しいサービスやビジネスの創出につながることを狙う。

事業者側もそれらの活動を支援する。田中氏は「1階のコンテンツメディアホールや屋外のスキップテラスなど、業務棟にはそうした活動を日常的に行える場所が計画されている。それらを会場として協議会に提供していく」と説明する(図4)。

(図4)業務棟低層部の南東側はスキップテラス。緑と水を取り入れたテラス空間が階段状に続く。アフターコンベンションへの利用も想定する(資料:東急不動産)

また、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科と国内外の大学との共同研究機関の新設も予定されている。事業者側では、同機関での研究開発や人材育成を通して育った人材や企業を含むベンチャー企業などを対象にしたインキュベーションオフィスを整備する計画だ。

もう一つの仕掛けは、エリアマネジメント組織の立ち上げである。ブランド力や資産価値の向上、良好な環境の維持によるエリアの魅力向上という観点から、都が事業者を公募する段階から求めていた点でもある。