電柱大国ニッポンで、地上から電柱や電線をなくす「無電柱化」への機運が高まっている。無電柱化に向けた取り組みは1980年代から続くが、今ターゲットに据えられつつあるのは、これまで取り残されてきた幅員の狭い道路。民間の技術力も生かし、無電柱化の加速化を狙う。今後、電柱のない快適で安全な都市づくりは一段と進むのか――。

「私は、東京の電柱をゼロにしたい」――。昨年12月、東京都議会定例会で小池百合子知事が無電柱化を推進する条例案検討への意気込みを述べた約1週間後、国会では「無電柱化の推進に関する法律案」が可決・成立し、翌週公布・施行された。

無電柱化推進法では、無電柱化の推進に向けた国・自治体と関係事業者の責務を定め、推進計画の策定を国に義務付ける一方、自治体にも努力義務を課した。さらに、国・自治体や関係事業者には、推進に向けた調査研究や技術開発も促す。

かたや都の条例案は、コスト縮減につながる技術開発の推進などを定めるもの。2017年度の制定を目指す。都は同時に、道路法の規定に基づく電柱の新設禁止に向けて、道路の占用を禁止する区域を都道全線約2200㎞にわたって指定する方針だ。

無電柱化推進への流れは、今年に入っても続く。国土交通省では1月、学識経験者で組織する「無電柱化推進のあり方検討委員会」の初会合を開いた。ここでは中長期の観点から、無電柱化推進の方向性を幅広く審議していく予定だ。

事務局を務める道路局環境安全課課長補佐の田中誠柳氏は「初会合では、例えば技術検証や意識啓発の必要性を指摘する意見が聞かれた。中長期の観点を踏まえ、短期的にまず何をすべきかを、この春をめどにまとめていきたい」と話す。

この2カ月の間に無電柱化の推進に向けた新しい動きが相次いだが、その歴史そのものは決して新しくはない。国が策定した整備計画に基づき進めていく今の流れは1980年代から脈々と続き、道路管理者に対する財政支援の措置も取られてきた。

ではなぜ、今あらためて無電柱化の推進なのか。最新の動向を解説する前に、無電柱化の基本をおさらいしておこう。

海外の足元にも及ばない東京

まず必要性は何か。施策の目的としては、主に次の3点が挙げられる。

第一は、災害時の通行空間の確保だ。大地震時に電柱が倒れ道路をふさぐと、通行の妨げになって救援・復旧活動に支障を来す。それを防ぎ、防災性の向上を図る。

第二は、歩行空間の安全性・快適性の向上だ。歩行者は狭い歩道で電柱に歩行を妨げられ、すれ違えなかったり車道の通行を強いられたりする。その解消を図る。

第三は、良好な景観の形成である。戸建て以上の高さを持つ電柱はもちろん、その間に張り巡らされる架線も、視界を妨げる。それをなくし、良い景色を生み出していく。

こうした狙いから無電柱化を推進するために取り組まれている整備手法の中で一般的なものが、電線共同溝方式(図1)である。道路管理者が地下に管路を埋設し、そこに電線管理者がケーブルを移設することで、地上から電柱と架線をなくす。

(図1)電線共同溝のイメージ図。地下に管路を埋設するのは道路管理者である公共の役割。そこに電力や通信など電線管理者がケーブルを移設し地上機器を設置する(資料提供:国土交通省)

日本の都市ではこれらの整備手法によって無電柱化にコツコツと取り組んできたものの、海外の都市に比べると、それはまだ格段に遅れている。

国交省によれば、無電柱化が国内で最も進んでいる都道府県は東京都だが、それでも世界に目を向ければ、その割合は海外の都市の足元にも及ばないという(図2)。戦災復興の時に低コスト・短工期を優先した結果という見方も聞かれる。

(図2)無電柱化の整備状況。欧州やアジアの都市に比べ、日本の都市の無電柱化は遅れている。最も進んでいる東京23区でさえ、海外の足元にも及ばない(資料:国土交通省)

遅れの原因はともかく、無電柱化がまだまだ進んでいないのは確かだ。東京の中心部でも国道や都道など幹線道路沿いで電柱を目にすることは少なくなってきたが、そこから中に入ると、ビル街の狭い歩道には電柱が立ち、上空には架線が伝う

無電柱化の障壁になっている要因の一つは、コストだ。道路を掘削し共同溝を埋設するという大掛かりな土木工事を伴うため、巨額の費用が掛かる。国土交通省によれば、その金額は公共負担分でキロメートル当たり約3.5億円という。

このほか、電力会社や通信会社などとの調整に手間取ること、電柱上部に設置されているトランスの置き場所を確保しにくいこと、幅員の狭い道路で事業を実施できないことなどが、無電柱化の推進を妨げる要因として市町村側から指摘されている。