水素インフラのまちづくりがいよいよ実証研究から社会実装にステージを移す。計画地は東京・晴海。2020年東京五輪・パラリンピックで選手の宿泊地として利用される「選手村地区」である。この街には、水素ステーションが整備され、そこからパイプラインを通して街中に水素を送る仕組みが整えられる。その具体像や課題が明らかになってきた。

ひっそりと静まり返った豊洲市場。その対岸に位置する東京・晴海ふ頭近くには、活気あふれる光景が広がる(写真1)。重機のクレーンが立ち並ぶこの広大な都有地では、東京都が民間事業者とともに、いわゆる選手村地区の再開発事業に取り組んでいる。地区面積は約18ha。目下、下水道の敷設や道路の盛り土など基盤整備が進む。

(写真1)東京・晴海の選手村地区では、基盤整備の工事が進む。手前に見える橋は、築地市場の移転問題でいまだ開通の見通しが立たない環状2号線(写真:茂木俊輔)

参画する民間事業者は、三井不動産レジデンシャルを代表とする大手デベロッパーら11社。地区内の土地を都から譲り受け、まず高層住宅21棟と商業棟1棟の構造体をつくり、2020年東京五輪・パラリンピック競技大会までにいったん都に引き渡す。都ではそれらを選手村の宿泊施設や利便施設として一時利用する計画だ。

2020年大会が終わると、民間事業者は都から戻された高層住宅や商業棟の仕上げ工事を進める一方で、超高層住宅2棟の建設工事に入る。街開きは2022年。その後、2024年度には再開発事業の完了によって、分譲住宅と賃貸住宅を合わせて約5650戸という新しい街が出現することになる。※「都市の未来」Vol.3参照

この街の目玉の一つは、水素インフラが組み込まれる点だ。

都はこの3月、「選手村地区エネルギー整備計画」を策定し、この街におけるエネルギーのあり方を示した。それによれば、ここで水素を利用する狙いには、自立分散型のエネルギー供給の推進、快適性とエコな暮らしの両立、環境先進都市のモデルづくり、という3つの側面があるという。今後、整備計画の内容に基づき水素を供給するエネルギー事業者を一般公募型プロポーザル方式でこの8~9月にも選定する予定である。

では、整備計画の内容を基に、水素インフラのまちづくりをみていこう。

市街地ではピークカットが狙い

水素インフラの拠点は、選手村地区に隣接する中央清掃工場の隣に位置する約4800㎡の都有地である(写真2)。エネルギー事業者は都と定期借地契約を交わし、この都有地を2020年度から20年間にわたって借り受け、水素ステーションを整備する。

(写真2)水素ステーションの整備予定地。ここから、BRT(バス高速輸送システム)の燃料電池バス車両や選手村地区の市街地へ水素を供給する(写真:茂木俊輔)

ここから水素を供給する先は大きく2つ。都心と臨海副都心を結ぶ交通機関として都が計画してきたBRT(バス高速輸送システム)の燃料電池バス車両と、街区単位で計5カ所に設置される純水素型燃料電池である。水素ステーションと純水素型燃料電池の間は、道路下に整備するパイプラインで結ぶ(図1)。

[画像のクリックで拡大表示]
(図1)水素パイプラインの敷設イメージ。水素ステーションと、5つの街区内に設置される純水素型燃料電池との間を結ぶ(画像提供:東京都)

純水素型燃料電池の定格出力は1カ所当たり30k~40kW程度の見込み。そこで発生する電力は、建物共用部の照明・空調設備や建物外構部の照明などに、同時に生み出される熱は、建物共用部の空調設備や賃貸住宅棟に併設されるサービス付き高齢者向け住宅や有料老人ホームの共同浴場の給湯設備などに利用することが考えられるという。

東京都都市整備局市街地整備部企画課長の村上清徳氏は「小売り自由化で電力料金が下がっている中で、水素の価格はまだ高い。メーンの利用は当面BRTの燃料電池バス車両。市街地にはピークカットを狙いに導入する」と説明する。

選手村地区には通常の市街地と同じく、エネルギーインフラとして系統電力も都市ガスも引き込まれる。街区単位ではさらに、太陽光発電や蓄電池も組み込まれる(図2)。そのうえで街区単位のエネルギーマネジメントによって、住宅棟共用部の照明・空調設備などで用いる電力を居住者が不快に感じない程度に減らす。一方で、太陽光発電と蓄電池のシステムや純水素型燃料電池を組み合わせ、エネルギー利用の最適化を図る。

[画像のクリックで拡大表示]
(図2)「選手村地区エネルギー整備計画」で想定する全体像。地区に隣接する中央清掃工場の排熱を活用することも検討している(画像提供:東京都)

エネルギーマネジメントの範囲は図3を想定する。分譲住宅ではマンション管理組合やそこから管理業務の委託を受ける管理会社の、賃貸住宅や商業棟では建物管理会社の守備範囲と重なる部分が多い。とはいえ、エネルギー事業者とも無縁ではない。「ただエネルギーマネジメント事業は何で収益を上げるかが課題。事業主体はまだ固めきれていない。今後、関係者の間で役割分担や契約関係を協議していく」。村上氏は課題を明かす。

[画像のクリックで拡大表示]
(図3)エネルギーマネジメントの対象範囲。エネルギー事業は純水素型燃料電池からの電力や熱の供給がその範囲内に想定される(画像提供:東京都)