都市部で農地という土地利用が増えていきそうだ。都市計画上は都市部の土地利用の一つとして認められるようになった一方で、税務上の取り扱いでは例えば市民農園の開設に向けた賃貸借にも道が開かれる見通しだ。多面的な機能を持つグリーンインフラとして、また都市住民の交流の場として、都市内で農地はこれまで以上に存在感を増していく。

「大きな転機になりうる。都市農地を市民農園として利用しやすくなる」。こう期待を寄せるのは、「シェア畑」と呼ぶサポート付き市民農園の仕組みを提供するアグリメディアで代表取締役社長を務める諸藤貴志氏だ。

転機をもたらすとみられるのは、現在検討中の税制改正である。

市街化区域と呼ばれる都市部にある農地のうち営農が継続されるものは都市計画で生産緑地地区に指定される。三大都市圏の特定市と呼ばれるエリアでは、生産緑地地区内の農地は相続が発生した時点で相続税の納税猶予が認められる仕組みだ。

この納税猶予との関係で、生産緑地地区内の農地を所有する農家は、例えば市民農園を開設・運営する第三者に農地を賃貸しにくい現状がある、と諸藤氏は指摘する。

「納税猶予の適用を受けている農地は第三者に賃貸できない。適用を受けていない農地は第三者に賃貸すると、相続が発生した時点で納税猶予の適用を受けられない可能性がある。リスクを避けたい農家は第三者への賃貸を踏みとどまる」

ところが政府与党がまとめた「平成29年度税制改正大綱」では、「生産緑地が賃借された場合の相続税の納税猶予制度の適用など必要な税制上の措置を検討し、早期に結論を得る」と明記された。農地を第三者に賃貸することに道が開けそうなのである。

2017年8月現在、東京圏を中心に65カ所で展開する「シェア畑」(写真1)の多くは、いわゆる特定農地貸付法に基づく方式。開設者である農地所有者が自治体と貸付協定を結んだうえで農業委員会の承認を受け、利用者と利用契約を交わす形態を取る。アグリメディアはこれらの手続き業務を農地所有者から受託し「シェア畑」の運営にあたる。

(写真1)アグリメディアで運営する「シェア畑」の一例。道具やノウハウなどユーザーが必要とするものは全て提供するのがモットー(画像提供:アグリメディア)

農地を第三者に賃貸しても相続税の納税猶予制度が適用されるようになれば、そこに新しく賃貸借に基づく方式が加わる可能性が見込まれる。「今後の展開としては、そこで『シェア畑』を増やしていきたい」と、諸藤氏は意気込む。

市街化区域内にある都市農地に対する扱いの見直しは税制にとどまらない。この6月には関連法制度や運用指針が改正され、都市計画にまで及んでいる。

緑地に位置付けられた都市農地

一つは、都市計画法に基づく「緑地」の中に農地を含むことが明記された点だ。国土交通省都市局都市計画課課長補佐の一言太郎氏は「宅地化すべきものから、都市部にもあるべきものへと農地の位置付けが変わった」と、その意味を説く。

優先的・計画的に市街化を図る前提に立つ市街化区域では、農地は歓迎されない土地利用だった。三大都市圏の特定市と呼ばれるエリアでは、市街化区域内の農地は税制上、宅地と同様に扱われ、営農継続には厳しい事業環境に置かれた。農政面で講じられる施策は当面の営農継続に必要なものに限られた。

別格が、保全する農地という位置付けの「生産緑地」である(図1)。都市計画で生産緑地地区の指定を受ければ、指定から30年間は農地としての管理が義務付けられ、建築行為に制限が課される一方、税負担は一般農地として軽減され、農政上も営農継続が後押しされる。都市計画上は、将来の公共施設用地として位置付けられた。

(図1)生産緑地制度の概要。都市計画での指定実績は6万1318地区・1万3008haに及ぶ(2016年12月現在)(資料提供:国土交通省)

これら市街化区域内の農地を都市計画で「地域の緑」として評価することができるようになったのである。「市町村が定める『緑の基本計画』の中で農地を『地域の緑』として位置付ける動きにつながっていくと考えられる」(一言氏)。

もう一つ、生産緑地に関しては「特定生産緑地」という新しい仕組みが創設される(図2)。これは、生産緑地地区が農地を保全する効力が事実上、間もなく切れることから生まれた、言わば延命策だ。特定生産緑地の指定を重ねることで、その効力を10年単位で延長できるようにする。税制上の取り扱いは未定だが、これまで同様の措置が継続される見通しだ。

(図2)特定生産緑地制度の概要。施行は2018年4月。生産緑地地区の指定から30年経過するまでに指定を終える(資料提供:国土交通省)

効力の期限は早いもので2022年。それを過ぎると、生産緑地地区内の農地所有者はいつでも自治体への買い取り申し出が可能になる。申し出に対して自治体が応じられない場合、最終的には宅地化が可能になるから、それは、いつでも宅地化が可能ということに等しい。保全する農地とは認められなくなってしまう。

そこで、特定生産緑地という新しい仕組みを設けて、保全する農地とそうでない農地をあらためて仕分けする。見方を変えれば、生産緑地地区の指定から30年経過してなお、営農が継続される農地は農地として保全していくという意思の表れとも言える。

生産緑地でレストランも可能に

さらに、営農継続を支援する観点から、生産緑地地区内の建築制限が緩和された。建築可能な施設はこれまで農業用の集荷施設や収納施設などに限られていたが、収益性を高め、農家の経営基盤を強化する狙いから、収穫物を原材料とする製品の製造・販売施設やレストランも新しく加えられた。ただ、例えばチェーン展開するファミリーレストランが立地することがないように、施設や食材などに関する詳細な基準を省令で定める。

レストランの開設に前向きな農家は少なくない。関連法制度の改正内容を市町村単位で説明して回っているという一言氏は「説明会に出席している農業従事者40人ほどにレストラン開設の意向を尋ねると、1~2人は手を挙げる」と明かす。