イライラ感の募る人混みは、精神衛生上だれもが避けたいだろう。駅にそれが集中すれば、電車の遅れにもつながる。都市につきもののその人混みを、映像解析や人工知能などの技術を用いて緩和しようという研究開発が進んでいる。混雑を予測し、その緩和に向けて人の流れを誘導するのが、その基本。都市ではいずれ人混みが消え、快適性が高まるのか――。

全国大学ラグビー選手権決勝戦の日。秩父宮ラグビー場で観戦を終えた大量の人が最寄り駅である東京メトロ銀座線外苑前駅に向かう。地下鉄の出入り口は狭いうえに階段だ。どうしても人が溜まる。「青山一丁目駅寄りの出入り口もご利用くださーい」。誘導担当の警備員が声を張り上げる。

彼らが頼りにするのは恐らく、経験や勘だ。出入り口に向かう人混みの様子を目視で判断し、ほかの出入り口にもそれを誘導する。こうした誘導を、経験や勘に委ねるのではなく、最新の技術を用いて支援しようというのが、日本電気(NEC)が研究開発する混雑予測技術である。

その内容を紹介する前にまず、技術開発の前提となる雑踏警備の基本を説明しておこう。

「歩行空間では2人/m²が混雑度の限界とされている。要所に警備員を配置し、目視判断でこの目安を超えないように誘導するのが一般的だ」。NECデータサイエンス研究所ヒューマンセンシング主任研究員の小西勇介氏は解説する。

ここでいう誘導とは、冒頭に挙げた迂回路への誘導に限らない。横断歩道の信号を制御したり鉄道で臨時ダイヤを組んだりすることも考えられる。

大規模イベントの終了時などに生じる人混みの混雑度を緩和するには、これらの誘導プランを適切なタイミングで実行に移す必要がある。混雑予測技術は誘導プランの効果をリアルタイムで検証し、意思決定者の最適な判断を助ける。

技術は大きく2つ、ある地点での混雑状況を把握する「群衆流量推定」と、混雑状況を動的に予測する「リアルタイム人流予測」に分かれる。

群衆流量推定は、往来に設置された監視カメラの画像を基に人の密度(群衆密度)とその向き情報(動き情報)を算出し、それらを基に人の流れを確率的に推定(人流推定)する。それによって、画角内の群衆の混雑度と流れの分布を導き出す(図1)。

(図1)混雑予測技術の群衆流量推定。群衆密度と動き情報から人の流れを推定し、群衆の混雑度と流れの分布を把握する(画像提供:NEC)

混雑予測は実測誤差20%以内に

ポイントは、「個々の人に着目せず、群衆をあくまで人の塊として捉えている」(小西氏)という点だ。そのため、監視カメラ側から見ると多くの人が重なり合う混雑した環境下でも、方向別の通過人数を定量把握できるという。

これらの情報を基に数分~数十分後の混雑状況を予測するのが、リアルタイム人流予測である。ここでは、「混雑環境下での人の動きをより正確に表現できる群衆モデルを用いることで、予測結果の精度を高めている」(小西氏)。

技術の確かさは実証実験を通じて検証済みだ。スタジアムと最寄り駅間に監視カメラを4台設置し、スタジアム前、駅前、その間にある交差点上の2カ所の計4カ所で、3万人規模のスポーツイベントの開始前後の画像を撮影し録画。それを基に混雑予測を試みた。

リアルタイム人流予測の結果は、下の図とグラフの通りだ(図2)。スタジアム前の画像から得られた群衆流量推定の結果を用いて交差点付近の混雑度を予測すると、20%以内の誤差で実測値に近い結果が得られたことが分かる。

(図2)実証実験でのリアルタイム人流予測の結果。信号のある交差点付近の混雑度を予測すると、実測との間の誤差は20%以内に納まった(画像提供:NEC)

NECではこの結果から、例えば交差点で歩行者側の青信号の時間を長くする、最寄り駅までの迂回路を案内する、といった誘導プランを予測に組み込み、そのプランによって混雑度をどの程度軽減できるかを検証することも可能になる見込みを得たという。

とはいえ、実社会で活用するにはまだ課題もある。「プライバシー配慮の観点から、画像情報は監視カメラから抜き取らず、その脇に取り付けたデバイスでリアルタイム人流予測まで済ませたい。リアルタイムの計算まで可能なデバイスの小型化を検討中だ」。NECパブリックSC統括本部新事業推進部シニアエキスパートの永野善之氏は明かす。

一方で、この混雑予測技術には、混雑緩和を目指す交通インフラ事業者、まちづくりを考える自治体、マーケティングの視点に立つ商店会など、警備関連に限らず、多様な顧客から関心が寄せられているという。「顧客の視点に立って使いものになるサービスにしていく。早ければ2017年度にも提供していきたい」(永野氏)。