スマートフォンの専用アプリを看板やデジタルサイネージなどにかざすと、カメラを通して個人の属性に合わせた情報を同時にたくさんの人々が受信できる。駅での道案内、商業施設でのクーポン、美術館での作品解説……暮らしをもっと便利にし、より感動的な顧客体験を実現するのが、光ID技術を活用した「LinkRay(リンクレイ)」である。新たな価値の提供を目指し、この技術をいち早く事業に導入した東急電鉄とSHIBUYA 109での事例をもとに紹介する。

多言語対応でインバウンドにも便利な道案内

東急電鉄武蔵小杉駅は、近年、新駅の開業や駅周辺の大規模な再開発に伴い、利用者が激増している。2006年には約19万人だった1日当たりの乗降員数は、2016年には22万3000人に増加、その内訳をみると通勤・通学客だけでなく、外国人観光客の利用も増えてきているという。

利便性が高まる一方で、駅係員への問い合わせが多様化・急増していることは大きな課題だった。駅間の乗り換えや出口、バスターミナルなどへ行くのに迷う人が多く、1時間当たりの問い合わせが100件を超えることも。世界各国からの来日客に、従来の英語対応では通用しない場面も増えた。

そこで東急電鉄が着目したのが、利用客自身が情報を取得し活用できるLinkRay。駅の改装事業の目玉として導入し、サイネージ道案内情報を取得できるようにした。利用客は「東急線アプリ」をダウンロードし、そこに実装されたLinkRayを通じ、風景写真で示した現在地から周辺施設へのわかりやすい道順を入手できる。アプリの設定により多言語にも対応でき、インバウンド対策にも一役買っている。

武蔵小杉駅では数か所にLinkRayが導入されているが、そのうちのひとつが天井案内サインである。ここをスマートフォンのカメラを使い撮影することで、必要な情報を入手できる。

LinkRayを活用した未来の駅

2017年4月に開始されたばかりの新サービスに大きな可能性を感じたのが同企画を担当した東京急行電鉄株式会社 鉄道事業本部 電気部 計画課長の矢澤 史郎氏。

東京急行電鉄株式会社
鉄道事業本部 電気部 計画課長
矢澤 史郎 氏

「当社線沿線のお客さまは2025年頃まで増加傾向にあると見込んでおり、利用者層はより多様化していくことは間違いありません。2020年の東京オリンピック・パラリンピックやその先を考えれば、短期間でホテルライクなおもてなしレベルへと高めていく必要があります。となれば、フェイストゥフェイスのサービスをみがくとともに、ITツールで代用できる部分は積極的に導入すべき。LinkRayはその有力な手段の1つです」

現在は武蔵小杉駅で道案内に特化して活用されるLinkRayだが、今後は渋谷駅をはじめとする東急線の拠点駅へと順次拡大していく方針。矢澤氏はLinkRayに代表される光ID技術を土台に、さまざまな事業者と提携することでビジネスチャンスを広げたいという。

「たとえばホーム上やコンコースのデジタルサイネージと連動して購買活動につなげられるようなコンテンツを提供する。駅構内のLinkRay対応スペースを、事業者へ販売・レンタルする。インフラとしてのLinkRay利用環境を整えることで、他社との優位性や沿線価値の向上につなげられると考えています」

消費活動の質を激変させる光ID技術「LinkRay」

武蔵小杉駅で導入されたLinkRayは、パナソニックが独自に開発した「光ID」を活用した先端技術である。LED光源を1秒当たり5000~8000回高速点滅させて情報を送信する可視光通信技術の発展版。スマートフォンのカメラをLED光源にかざし、専用アプリを通じてID信号を高速受信する。受信した光IDを元にアプリがパナソニックのクラウドサービスにアクセスし、そこに紐づけられた情報を取得して表示する仕組みだ。

光源の横幅の5倍の距離まで離れても0.3秒以内に高速受信できるので、「QRコード」よりも遠くから、そして混雑時でもスムーズに情報を取得できる。また、同じID信号でも紐づけたアプリや設定した属性により違う情報を表示させられるため、1つの光源から複数の人々が自分にぴったりの情報を入手できるのも画期的だ。

LinkRayの仕組み

これらの特長を生かせば、
●多言語での情報提供により、インバウンドへのホスピタリティを低負担で実現できる
●割引クーポンやお得情報を発信し、顧客の誘致や購買活動に結びつけられる
●LED光源を当てれば製品そのものを情報発信源にできるため、美術館や博物館で作品の景観を損ねずにガイダンス情報を付加できる
●コンサート会場などで、特定の日時にしか取得できない情報を発信することで、体験型消費の質を高める

といった事業の効率化や価値向上が見込める。情報提供側のメリットとしては、アプリ利用者のアクセスログを参照することで、有用なマーケティングデータを得ることができる。