技術の進化と地球規模の環境変化に伴い、環境と人類の関わり方が大きく変わっている。つい先日も猛毒で凶暴なヒアリが日本国内に上陸したことが大きく取り上げられ、在来種のミツバチを食い荒らすツマアカスズメバチも今後定着する可能性がささやかれている。海の世界でも同様に、船舶移動に伴う生態系の乱れが深刻化。今回は注目され始めた「バラスト水」をめぐる対策にフォーカスした。

バラスト水の課題にいち早く取り組んできた日本郵船

バラスト水とは、積荷の重さに合わせ、船のバランスを保つために、船舶に取り込まれたり排出されたりする海水のことである。異なる国の港を行き来する船の場合、バラスト水に混入している生物が本来の生息地とは異なる地域で排出されることになるため、環境や生態系に影響を与えることや、病原菌を運んでしまうことが問題視されていた。

船のバランスを保つために船の出発・到着時に利用されるバラスト水が生態系に影響を与えると問題視されている。

「バラスト水問題が初めて認識されたのは、1988年のIMO(国際海事機関:International Maritime Organization)の第26回海洋環境保護委員会と聞いています」と日本郵船株式会社の髙橋 正裕 氏は話す。このとき、カナダの五大湖に海外からのバラスト水が入り、本来は五大湖にいないはずの外来海洋生物が定着していることが提議され、議論が始まったというのだ。その後、2004年2月にIMOでバラスト水管理条約が採択、時間をかけて52ヶ国が批准し、2017年9月8日に条約を発効。新造船だけでなく、2年後の2019年9月8日以降に定期点検を行う就航船にも、IMOのガイドラインに従ってバラスト水処理装置を搭載し、無害化して排出することが義務付けられている。

日本郵船では、早い段階からバラスト水の課題に取り組んできた。「2004年に条約が締結されてから、いつ発効されるかが読めない状態でしたが、2010年から就航船にバラスト水処理装置を搭載して、どのような装置をどのように導入・運用していけばよいかを試行錯誤しながら、また、USCG認証取得で北米を含めた、世界で運航する船舶に対応し、装置を導入することで地球環境に貢献するよう取り組んでいきました」。

日本郵船株式会社
環境グループ
グループ長
髙橋 正裕 氏

バラスト水処理装置は、「電気分解方式」「UV方式」「オゾン方式」「薬剤方式」とさまざまな方式があり、寄港地や貨物、船舶の大きさなどに応じて最適なものを選ぶ必要がある、と髙橋氏は話を続ける。「早くから我々が取り組んできたのは、船舶業界が世界中で取り組んでいく環境問題に対して、トップランナーであり続けなければならないという思いからです。これまでに得た知見は、業界に先んじたものとなり、我々の競争力の原石になると考えています」と髙橋氏は話す。

頻繁にバラスト水を利用するニューかめりあの事例

博多港と釜山港をつなぐ「ニューかめりあ」
カメリアライン株式会社
代表取締役社長
田邊 英城 氏

一方で、日本郵船の子会社で、博多港と釜山港を1日1往復する「ニューかめりあ」を運航する株式会社カメリアラインにとっても、バラスト水処理装置の導入は急務だった。「我々としても、IMOが定めた条約を守ることは当然で、企業としての法令遵守の観点からも、いち早く取り組まなければならない課題でした」とカメリアライン株式会社の田邊 英城 氏は話す。しかし、一般的な貨物船とは異なり、ニューかめりあは年間約350往復の航行を行っているため、バラスト水排出を両港で700回近く行う必要があり、頻繁な使用に耐えられるだけの信頼性の高い装置を使う必要があった。また、貨物だけでなく、人も乗せる船舶であるため、欠航日を増やせないという考えもあり、旅客船に義務付けられている一年に1度の定期点検で導入を終える必要があったという。

「いくつかの装置を検討し、3社から提案をもらって検討していきました」とカメリアライン株式会社の福間 功 氏は話す。薬剤を使う装置やUV方式を使う装置などがある中で、最終的に採用されたのは、パナソニック環境エンジニアリング(以下、パナソニック)が提供する電気分解方式の「ATPS-BLUEsys」だった。