膨張を続ける医療費を抑制するためには、国民の健康寿命を伸ばし、日常生活における健康管理と病気予防が欠かせない。しかし、生活習慣病の代表とも言える糖尿病の栄養管理は煩雑なことで知られる。「もっと手軽に、食べたい食事のカロリーを知りたい」。こうしたニーズに応えるデバイスがパナソニックによって開発が進められている。二人三脚で開発に協力する栄養学の権威、そして開発担当者が抱く“未来像”を聞いた。

社会課題である糖尿病の予防にどのように立ち向かうべきか

厚生労働省が2016年10〜11月に実施した「国民健康・栄養調査」によれば、糖尿病が強く疑われる者(糖尿病有病者)、糖尿病の可能性を否定できない者(糖尿病予備群)はいずれも約1000万人と推計される。また世界保健機関(WHO)は世界の成人の糖尿病有病者数が2014年までに4億2200万人に到達したことを発表。実に、およそ11人に1人が糖尿病を患っている計算となる。

「糖尿病が強く疑われる者」、「糖尿病の可能性を否定できない者」の推計人数の年次推移(20歳以上、男女計)
(厚生労働省の「平成28年 国民健康・栄養調査結果の概要」より作成)

糖尿病にはいくつかの種類があるが、代表的なものは運動不足、食べ過ぎ、肥満など生活習慣要因が作用する「2型糖尿病」だ。自覚症状がほとんどないため、知らぬ間に進行してしまうケースがほとんど。放置すれば合併症のリスクが高くなり、糖尿病性神経障害、糖尿病網膜症、果ては人工透析が必要な糖尿病腎症を引き起こす可能性もある。

生活習慣病の増加を食い止めるため、政府は健康寿命延伸を喫緊の課題として挙げている。2017年6月に発表した「未来投資戦略2017」では、「健康管理と病気・介護予防、自立支援に軸足を置いた、『新しい健康・医療・介護システム』を構築することにより、健康寿命を更に延伸し、世界に先駆けて生涯現役社会を実現させる」ことを明記。これからの社会にとって、いかに自己の健康管理と病気予防が大切なものであるかを強調した。

糖尿病患者にとって基本となる健康管理法が食事療法だ。1日のカロリー摂取量を設定し、その数値内に収まる食事を栄養バランスを考慮しながら摂っていく。一方、各家庭で毎食の栄養管理を適切に行いながらバラエティに富んだ食事を提供するのはハードルが高いのも事実。結果としてすでにカロリーの数値が判明している過去に作った食事を繰り返すようになり、いつしかメニューがルーチン化することも多い。

食のルーチン化は、それまで食べることに対して貪欲だった糖尿病患者に少なくないストレスを与える。だが、“食事することの楽しさ”を取り戻すためには食事を提供する側が綿密なカロリー計算を毎食行って、さらに栄養が偏らないようにしなければならないため、かなりの手間や時間がかかってしまう。

百戦錬磨の栄養学のプロも驚いた精度の高さ

もし、皿に乗った食事のカロリーや栄養素を短時間で正確に弾き出してくれれば、こんなに便利なことはない――パナソニックでは、糖尿病患者または患者を支える家族にとって夢のようなデバイスを開発中だ。

その名も「CaloRieco(カロリエコ)」。現在のプロトタイプはテーブルに乗るコンパクトな形状のデバイスで、皿に乗せた食事を入れて計測すると現状はわずか15秒ほどで食事のカロリーと含まれる三大栄養素(炭水化物、タンパク質、脂質)のグラフを割り出してくれる。1日の摂取カロリーや栄養バランスの累計に加え、週間・月間単位での推移もグラフ化。ログデータをクラウド上に保存し、スマホやタブレットアプリによって計測値を閲覧・管理することを目指している。

「CaloRieco(カロリエコ)」のプロトタイプ

もう1つのポイントが、栄養測定技術の平均誤差が約プラスマイナス20%』(実験環境下)と少ないことだ。これは公的な栄養表示基準における誤差の許容範囲内であり、ブレ幅の少ない信頼性の高い数値となっているが、より精度を高めるべく開発が続いている。

「“そういう装置があればいいな”と思うものが目の前にありました。最初に試したときは、本当に驚きました」。そう語るのは、カロリエコの開発にアドバイサーとして携わっている日本栄養士会常任理事でもある、駒沢女子大学の田中弥生教授だ。地域密着型病院や在宅医療の現場で経験を積み、数多くの生活習慣病患者と接してきただけに、田中教授は栄養管理の難しさが身にしみてわかっている。

駒沢女子大学 教授
日本栄養士会 常任理事
田中 弥生 教授

「栄養士たちは食事の写真を撮って頭の中で献立を組み立ててエネルギー量を計算しています。しかし、勉強会を開くと結構誤差があったりします。体重が1キロ増えたら、7200キロカロリーを減らしてあげる必要があったりする。最初の誤差が大きければ日数が経つほど計算が合わなくなります。カロリエコはエネルギー量が科学的な成分値とほぼ合っているため、数値の整合性が高いのが特長です」(田中教授)

例えばトマト1つ取っても甘い品種もあればそうでない品種もあるように、食品成分表(日本食品標準成分表)はあくまでも平均化した数値です。そのため田中教授は、どうしてもアバウトになる感覚ではなく、精度の高い科学的計測を目指すカロリエコについて「まさに望んでいたものです。成分表を見ながら計算する時代は淘汰されるのかもしれません」との感想を抱いている。

活用法としては糖尿病やCKD(慢性腎臓病)など、食事制限が必要な患者に対して効果的だろうと話す。ただし、「どれだけテクノロジーが発達しても、我々のような医療関係者の声がけが最も大事。ITツールを与えておしまいでは、行動は変わりません」(田中教授)と釘を刺す。その上で田中教授は、「カロリエコを上手く使いこなし、“生きていくための相棒”にしていくことが理想でしょう」と話してくれた。