日本政府は世界レベルでの観光先進国を目指す中でさまざまな取り組みを進めている。その中でも注目を集めているのが、羽田空港に導入された顔認証技術の活用による帰国手続の合理化。画像認識の最新技術とパナソニックが長年培ってきたノウハウが融合された同製品は、「厳格さ」と「円滑さ」の両立が高いレベルで求められる出入国管理において十分な成果を残しているという。

増え続ける空港利用者 出入国管理体制の充実が喫緊の課題に

「観光先進国」を目指す日本政府は、2016年3月に「明日の日本を支える観光ビジョン」を策定。2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催を踏まえ、2020年の目標を訪日外国人旅行者数4000万人、訪日外国人旅行消費額8兆円とし、官民一体となってさまざまな取り組みを進めている。どちらも2015年の約2倍にあたる数値となるため、その実現にはいくつかの改革が必要となる。そのひとつとして挙げられるのが、空港における「出入国管理体制の充実」だ。

そもそも、日本を訪れる外国人観光客は近年右肩上がりで増えており、2016年10月の時点で2000万人を突破。加えて、2015年からは年間400万人ずつ増加しており、2020年の4000万人という目標の達成も現実味を帯びている。

年別訪日外国人数の推移(日本政府観光局(JNTO)発表統計より作成)

こうした外国人観光客の急増の中、先ほど挙げた空港の出入国管理体制の増強は待ったなしの状況だ。現状でも入国手続きの際には長い列に並ぶこともあるわけだが、仮に審査ブースを増やせたとしても、審査官の増員は簡単なことではない。

また、2010年に設置された「訪日外国人2500万人時代の出入国管理行政検討会議」では、「訪日外国人を2020年初めまでに年間2500万人まで増加させる」という目標が掲げられていた。そういった当時の状況を振り返ると、外国人観光客が予想以上に増加したという背景もうかがえる。

この状況に対して、法務省で以前から検討されてきたのが「顔認証技術の活用により日本人の出帰国手続を合理化し、より多くの入国審査官を外国人の入国審査に充て、厳格さを維持しながら、更なる円滑化を図る」という発想だ。

法務省では、2007年から、専用リーダーにパスポートと両手の指紋を読み込ませることで本人確認を行う「自動化ゲート」を導入しているが、なかなか利用率が上がらない状況にあるという。その理由は、「指紋の事前登録が必要」という手間があったから。さらに、「さまざまな要因で指紋が読み取れない」、あるいは「パスポートの読ませ方が難しい」ことによりゲートの通過までに時間がかかってしまうほか、結局は入国審査官に対応してもらうことになるケースもあり、ユーザビリティの面でいくつかの課題があったことも考えられる。

注目される「顔認証」が省人化と時短を実現

そこで、指紋認証に変わる新たな手法として注目されたのが「顔認証」を活用したシステム。法務省は、2014年に顔認証に関する実証実験を成田空港と羽田空港で実施。一定の成果を得られたことから、顔認証を利用したシステムの導入を本格的に推進するようになった。

このような経緯を経て、法務省入国管理局が新たなシステムとして採用したのが、パナソニックが開発した「顔認証ゲート」。2017年10月18日から、羽田空港の日本人帰国手続に先行導入されている。

羽田空港で日本人帰国手続用として3台導入されている「顔認証ゲート」

10年の経年変化も識別できる「高性能顔認証エンジン」

顔認証ゲートは、指紋認証システムを利用した自動化ゲートの課題を踏まえ、ユーザビリティを最大限に高めているのが大きなポイントだ。例えば、顔認証ゲートはその名の通りユーザーの顔を識別して本人確認を行うわけだが、認証にはその場で撮影した本人の顔画像と、パスポートのICチップに保存されている顔画像を利用する。指紋認証のような事前登録は不要となるため、利便性は格段に上がっているわけだ。

そもそも、パナソニックの顔認証技術には、30年近い歴史がある。技術開発は1990年代からスタートし、デジタルカメラ「Lumix(ルミックス)」シリーズの顔検出や顔認識などに採用。さらには、業務用の監視カメラにも利用され、大型ショッピングモールや公共施設などでのセキュリティ対策に顔認証技術は広く活用されている。

こういった長年の技術やノウハウの蓄積が、今回の顔認証ゲートに活かされているのは言うまでもない。

「2枚の顔画像を比較する顔認証は、一見すると簡単に思われがちですが、今回のケースでは違いました」。そう話すのは、パナソニックで顔認証技術の開発を担う田村一氏だ。パスポート特有の課題に頭を悩ませたという。

「パスポートは、最長で10年間同じものを利用します。そのため、パスポートのICチップに保存されている顔画像と現在の本人の顔とでは、最大で10年の隔たりが生じるわけです。もちろん個人差はありますが、10年経てば顔の雰囲気が劇的に変わってしまうケースも少なくありません。

今回の顔認証ゲートでは、髪型やメガネはもちろん、化粧やしわ、シミなどの経年変化による違いがあったとしても、それをしっかり『本人だ』と認識できなければなりません。一方で、非常に似ている他人がいた場合には、その人をしっかり『他人だ』と認識する必要もあります。この課題を解決するのには非常に苦労しましたが、過去のノウハウや新しい技術を融合させることで、高い精度を備えた『高性能顔認証エンジン』を実現できました」(田村氏)

パナソニック株式会社 コネクティッドソリューションズ社
イノベーションセンター 技術総括
画像ソリューション開発部
開発1課 主任技師
田村 一氏