日本の各地で期待が膨らむインバウンド需要。最近はリピーターとして何度も日本を訪れる観光客も珍しくない。こうした訪日観光客に、より一層深く、日本文化に触れ、楽しんでもらえるようにするには、多くの観光客が言語や文化の壁を超えられる仕組みが必要になる。言語の自動翻訳、日本の土地や文化などについての説明・解説、関連する事柄の紹介といったことだ。既にその一部を実現する手段は実用化されている。例えば東京・中央区の明治座では、日本の伝統芸能とポップカルチャーを組み合わせた舞台において、音透かしの技術を利用した多言語公演を行った。

明治座は、2016年9月から2017年3月にかけて、「SAKURA -JAPAN IN THE BOX-」という講演を催している。開演は19時と20時半の、1日2回。日中に東京を観光してきた旅行客が夜も楽しめるエンターテインメントとしての企画である。背景にあるのは、日本滞在時に物足りなさを感じている訪日外国人がいること。パリやロンドン、ニューヨークなど海外の大都市には、夕食を済ませてから楽しめる夜のエンターテインメントが多数ある。21時以降に開演する舞台やショーも珍しくない。

このSAKURAは、インバウンドを意識した、新たなエンターテインメントへのトライアルと見ることもできる。内容の構成はもちろん、最新のプロジェクションマッピングやAR(拡張現実)を融合させた舞台とすることで、これまでとは違う文化の伝え方に取り組んでいる。

SAKURAは日本の伝統芸能にアニメーションやゲームなどのポップカルチャーを組み合わせ、日本の美しさや強さ、そして四季の移ろいを表現するというダンスパフォーマンス。日本舞踊や和楽器の生演奏にアクロバティックなダンスとポップミュージックを取り入れるなど、外国人だけでなく日本人が見ても楽しめ、日本文化を再発見できる内容となっている(写真1)。

(写真1)明治座で夜間に2回公演されるSAKURAの舞台
舞台袖で和楽器を生演奏し、背景のスクリーンにはプロジェクションマッピングで映像を映し出す。

楽しみ方の面でも、新たな仕掛けに取り組んでいる。その一つが専用のスマートフォンアプリ。あらかじめスマートフォンに専用アプリをダウンロードしておくと、アプリから公演中の舞台を撮影したり、解説や歌詞をリアルタイムに画面に表示させたりすることができる(写真2)。一部のシーンはARと連動していて、スマートフォンのカメラを通して舞台を見ると、サクラや雪が降っている様子を楽しめる(写真3)。

(写真2)SAKURAの鑑賞に使われる専用アプリのメニュー画面
日本語、英語、中国語(簡体中文/繁体中文)、韓国語の4か国5言語に対応している。
(写真3)専用アプリのAR効果
スマートフォンのカメラを通して見ると、花びらや雪が降っているシーンになる。

アプリは外国人観光客向けに、5言語(日本語、英語、簡体中文、繁体中文、韓国語)に対応している。セリフが少なくダンスを見るだけでストーリーを理解できるように演出されているが、より分かりやすくなるよう、重要なシーンや挿入歌については、スマートフォンに解説と歌詞の意味をテキストでリアルタイム表示するようにした(写真4)。

(写真4)アプリによる英訳の表示
舞台のシーンに合わせ、リアルタイムにスマートフォン画面に各言語の解説が表示される。