目が全く見えないわけではないが、視機能が極端に弱く日常生活や就労の場などで不自由を強いられる弱視者。最近ではロービジョン者とも呼ばれる。その見え方は人によって違いがあり、メガネの使用などこれまでの光学的な方法で矯正することは困難だった。この課題を解決するソリューションとして、市場に出てきそうなメガネ型デバイス(いわゆるスマートグラス)がある。半導体レーザーの技術を応用し、網膜に画像を直接投影する。将来的には広範な応用を期待できる。

もともと、人間が外界から得る情報の8割は視覚情報といわれる。パソコンやスマートフォンなどのIT機器を使って得る情報に関しては、恐らく9割以上が視覚によるものだろう。したがって、視覚に障害を持つ人はさまざまな場面で不利な状況に置かれる。

視覚障害にもいろいろとタイプがあるが、厚生労働省が行った統計調査によると2007年における日本の視覚障害者の数は約164万人で、そのうち何とか見えるものの不自由な生活を送っている“弱視者”は約150万人に上る。弱視の原因は疾病や事故だけでなく、高齢化も影響する。このため、統計調査から9年が経過し高齢化が進んだ日本においては、さらにこの数字は増えていると考えられる。

メガネに搭載したカメラの映像を網膜に投影

こういった弱視者向けに視機能を補助するデバイスが、実用化に近づいている。東京大学ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構と共同で開発にあたっているQDレーザのメガネ型視力補助デバイス「網膜走査型レーザアイウェア(RETISSA)」だ。半導体レーザー技術を使う。従来の技術に比べ、高い温度安定性、低消費電力、長距離伝送、高速などといった特徴を持つ。

メガネのように装着して眼の前に画像を表示させるディスプレイデバイスは、既にいろいろと商品化されている。例えばVR(仮想現実)のために作られたヘッドマウントディスプレイやAR(拡張現実)のために作られたスマートグラスだ。網膜走査型レーザアイウェアは、健常者がディスプレイで情報を確認しながら保守作業などを行うような現場での利用も考えられているため、用途的には他のスマートグラスとよく似ている。

大きく異なるのは、メガネフレームの外側にカメラを、内側にプロジェクターを組み込むこと(写真1)。メガネの前面にあるカメラからの画像を、超小型のレーザープロジェクターから網膜に直接投影することで、通常のメガネのように弱視者がリアルタイムに風景を見ることができる。使用するレーザー光は蛍光灯の光よりも微弱なため、安全性に問題はない。

(写真1)網膜走査型レーザアイウェアは、通常のメガネと同様の外観によるユニバーサルデザインを目指している

レーザーの光で網膜に直接画像を投影

そもそも人の眼は、角膜とレンズの役割をする水晶体を通して入ってきた光が網膜で焦点を結び、その像を視覚として認識している。このため、角膜や水晶体などに問題があると網膜に焦点が合わず、視覚障害を起こしてしまう。

網膜走査型レーザアイウェアは、レーザー光が角膜と水晶体を直進して網膜に直接像を描くため、白内障や角膜混濁、屈折異常、円錐角膜、ドライアイといった前眼部(角膜や水晶体)の疾病によって視覚に障害をきたしている場合でも、網膜に問題がなければ像を認識することができる(図1)。「像の大きさや明るさを調整したり、コントラストを付けたりすると、今ある弱視の症状のほとんどを救うことができる」(QDレーザ 代表取締役社長 菅原 充氏)。網膜色素変性症や緑内障、網膜剥離などによって視野が狭くなる視野狭窄といった障害に対しても、「カメラのレンズを広角にしてその画像を有効な網膜の部分に圧縮して投影することで視野を広げてあげることができる」(菅原氏)。

(図1)レーザーによる網膜投影の視力支援
投影する画像の領域も任意に設定できるので、網膜の疾病にも有効。(QDレーザの資料より抜粋)

また、現状の液晶や有機ELディスプレイだと、周囲の明るさに応じて輝度を上げたり下げたりしないと見えにくくなる。これに対して、網膜に直接映像を書き込む方法だと周囲の光の環境に左右されないので直射日光の下でも視認でき、利用する場所やシチュエーションに制限はない。