Fitbitで利用されているピン形リチウムイオン電池とは

パナソニック エナジーデバイス事業部 商品技術第二部 ウエアラブル電池開発課 末弘 祐基氏

2015年の夏ごろにFitbitからピン形リチウムイオン電池の問い合わせを受けたパナソニック株式会社 エナジーデバイス事業部 商品技術第二部 ウエアラブル電池開発課の末弘 祐基氏は、当時を次のように振り返る。「Fitbitさんからは、デザイン性のために、とにかく電池を細くしてほしいと要望されました。しかし、2015年の時点では、デザインに合わせたピン形リチウムイオン電池の大きさでは容量が少し足りなかったため、セルのサイズは変えずに容量を10~20%上げていけるように開発を続け、求められる電池特性を達成し、2016年春からFitbitに向けたピン形リチウムイオン電池の量産を本格的に開始しています」。

パナソニックがピン形リチウムイオン電池の開発を開始したのは、2010年ごろからだと末弘氏は話を続ける。元々、釣りのウキ用にピン形の一次電池(繰り返し充電ができない、使い切りの電池)を販売していたが、ウエアラブル市場の広がりで小型の電池の需要が高まると考え、充電可能な二次電池の開発を始めたという。「二次電池では、充電と放電を繰り返すので、長期的な信頼性を重視して開発を続けました。構造は、PCなどで使われる直径18mm長さ65.0mmサイズの18650電池と変わらず、電極を巻いてケースに入れるものですが、電池自体が小さいので、液漏れや極板の位置合わせなどの信頼性に関わる設計がシビアになってきます。その中でも、できるだけ容量を高める必要もあることにも苦労しました」と末弘氏は話す。

こうして開発されたピン形リチウムイオン電池は2014年に発表され、デザイン性を損なわずにリスト型のウエアラブル活動計に搭載できることでFitbitに注目され、さらに開発が進み現在では直径3.65mm、高さ20mm、質量約0.6gで容量15mAhのピン形リチウムイオン電池の量産化に成功している。「このサイズと容量は、パナソニックにしかできないと自負しており、業界最小レベル(民生用の円筒形リチウムイオン電池の直径、および、体積容量において。コイン形電池を除く。2017年3月時点、パナソニック調べ)を実現しています。小型のパウチ電池も多くのメーカーから出ていますが、幅を取らずにデザイン性を高められるピン形のほうが需要も高くなると考えており、信頼性の面でもピン形はしっかりとステンレスのケースに入れられ漏液や膨れに強い特性があります」と話す末弘氏は、今後の展開について次のように話している。

「今後は、リストバンド型のウエアラブル端末だけでなく、メガネ型やスタイラスペン、ワイヤレスイヤホンなど、ピン形リチウムイオン電池の需要が増えてくると考えています。形状や容量の要望もお客様によって異なるため、直径や高さを変えて容量を増やすことも考えています。お客様の求めるサイズや容量にすぐに対応できるように、生産の体制や機構の設計を構築していくことが今後の課題です」。

常識を超えた曲げられる電池の開発

パナソニック エナジーデバイス事業部 商品技術第二部 ウエアラブル電池開発課 浅野 裕也氏

パナソニックのエナジーデバイス事業部では、ピン形リチウムイオン電池だけでなく、小型の二次電池としてフレキシブルリチウムイオン電池も開発されている。フレキシブルリチウムイオン電池は、厚さ0.45mmで曲げたり、捻ったりする環境でも利用できる電池で、2008年ごろから開発が続けられてきたと、パナソニック株式会社エナジーデバイス事業部 商品技術第二部 ウエアラブル電池開発課の浅野 裕也氏は話す。「これまでにない市場を開拓するため、自由な形態の電池の開発を始めました。ニーズの開拓がなかなか進まなかったのですが、最近になってスマートウェアが登場し、乳幼児の体に貼って体温を測るデバイスや、電池を入れて電子マネーの残高を表示するカードなどが出てきたため、2016年にフレキシブルリチウムイオン電池の発表を行っています」。

「常識では、電池を曲げるということは考えられなかったため、普通の電池を曲げるとどうなるかというところから始め、電池の劣化を細分化して分析していきました」と開発を振り返る浅野氏は、「電池を曲げることで劣化する原因を1つずつ分析しながら対策を考えていきましたね。物を曲げると外装に必ずしわが発生し、それでも曲げ続けるとしわの部分が変形し、外装が破れて液漏れなどが発生するため、外装体を柔軟で曲げに強いものを選定するところに苦労しました」と話す。

フレキシブルリチウムイオン電池は、曲げ半径R25mm(コーヒーのスチール缶の曲面相当)で1,000回繰り返し曲げても性能を維持できるという。また、繰り返しの充放電性能が高いため機器を長寿命化でき、高い安全性で身体装着にも安心できるように開発されている。現在は、最小で28.5mm×39.0mmで質量約0.7g、容量が17.5mAhの製品が開発されており、35.0mm×55.0mmや40.0mm×65.0mmの製品も開発されている。

「今後は、量産のためのプロセス開発が課題となってきます。また、極端なことを言えば、将来的にスマートウェアを洗濯しても劣化せず、突発的に折り曲げても過酷な変形があっても性能を維持できるようなフレキシビリティを高めていくようにしたいですね。カードなどで使えるので、ヘルスケアだけでなく、セキュリティなどでの需要も高まってくると考えています」と浅野氏は話す。

【動画解説】くり返し曲げても、ほぼ同等の充放電サイクル特性を維持することができるため、機器の長寿命化にも貢献する。

電池の技術開発でウエアラブルデバイスの活用が進む

Fitbitの熊谷氏は、健康経営に同社の製品が役立っていく未来について、次のように話している。「ストレスや過労などが話題となってきている中で、我々の製品を企業単位で導入してもらうことで健康経営に貢献できることは非常に光栄ですね。Fitbitのおかげで、社員の命を助けることができたといったケースも出てくるはずです。また、日本の医療関係者と話を進めていて、データを日本でどのように活用できるかといったことにも取り組んでいます。24時間、一日中の心拍数を計測して記録することはこれまでは実現できなかったことなので、これらのデータを使って今後の日本の医療にも貢献できたらいいですね」。

パナソニックのエナジーデバイス事業部では、小型のピン形リチウムイオン電池やフレキシブルリチウムイオン電池を開発することで、ウエアラブルデバイスやスマートウェアなどの製品の普及の障害となる電源の問題を解決しようとしている。これらの電池の技術開発がさらに進んでいけば、企業の健康経営はもちろん、多種多様なデバイスが普及していくようになり、さまざまな分野での活用が広がっていくことになる。