食の未来を変える可能性を秘めているフードテック。「食×テクノロジー」から生まれた造語で、スマホで管理する農業経営、昆虫食などの代替食品、全自動調理ロボットといったSFの世界のような技術を含めて、食に関連する広いビジネス領域を包括するものだ。農業従事者不足、食料問題など社会的課題の解決にも役立つと期待される技術もある。日本で初めてフードテック専門の戦略投資部門を設立したオイシックスのEC事業本部戦略推進室室長兼経営企画本部Food Teck Fundセクションマネージャーの佐藤淳氏に、フードテックの可能性について聞いた。

――「フードテック」と一口に言っても、ジャンルはかなり幅広いですね。

オイシックス
EC事業本部戦略推進室 室長兼経営企画本部
Food Teck Fund セクションマネージャー
佐藤淳氏

米国では、もともと三つの分野が有望視されていました。一つはフードデリバリーをテクノロジーで解決するもの。物流や流通分野での技術です。もう一つはレストランの予約システムや食材の廃棄量をデータで可視化するツールなど、外食産業の最適化を図るようなもの。そして、三つ目は食の代替品です。完全栄養食をうたった「ソイレント」が有名ですが、あとは昆虫食に関する技術などもあります。箱の上部に虫の卵を入れておけば、下部のトレーに幼虫が出てきて、いつでも新鮮な虫が食べられる、という商品を海外で見たときは驚きました。

最初はこの三つの分野に注目が集まったのですが、現在、フードテックの概念は食に関するあらゆる分野に広がっています。なかでも弊社が最近注目しているのは、調理家電、アグリテック、ヘルスケア、味覚に関する研究といったジャンルです。調理家電では、真空にして低温で調理するというような新しい調理法が家電でできるようになっていますので、いくつか海外のメーカーと話をしています。調理してくれるロボット、外出先からでも中身が確認できる冷蔵庫など、この分野の新しい技術はいくらでもありますね。また、アグリテックはフードテックとは別に切り出して考えられることも多いですが、弊社ではフードテックの一つとして捉えています。

土壌を調べることで栽培に最適な作物がわかる?

――アグリテック分野ではどのような技術に注目していらっしゃいますか?

アグリテックの一番大きな目標は、食料問題の解決です。このままいけば増えていく人口に対して確実に食料が足りなくなりますから、どうやって収穫を上げていくか。そのための技術革新に注目が集まっています。もう少しミクロな視点だと、農業に携わる人の収入増や労働環境の改善ですね。

さらにミクロな視点で言えば、弊社が扱う「ピーチかぶ」「トロなす」といった人気が高い野菜の収量を高めることですね。生産者の“匠の技”をデータ化して自動でコントロールできるようになれば、多くの人が作れるようになり、収量だけでなく新規就農者が事業に成功する確率も上がることが期待できます。

――御社がフードテック関連で事業資本提携された第1号は、アグリテックベンチャーのルートレック・ネットワークス社でした。

ルートレック・ネットワークス社に注目したのは、水分管理や栄養管理など今まで経験に頼っていた部分を数値化・データ化する技術を低コストで実現していたからです。もともと農業とはまったく関係のないソフトウエア開発をしていた会社で、データの蓄積や分析から事業に入っているのが面白いと思いました。オイシックスは農家とつながりが深いので、両社がうまく連携すれば、よりデータをうまく活用できるのではないかと考えています。

ルートレック社が開発した技術「ゼロアグリ」は、ハウス内の土壌の水分量、栄養素の状態、地温、温度、湿度、日射量をセンサーで測り、たとえばトマトならトマトにとって最適なタイミングで最適な培養液を自動で供給します。ハウス内の環境データは手元のタブレットからでも見ることができます。タブレットを操作するだけで培養液の量を変更することも可能です。ですから土日に休んでも外出してもいいので、就農者の労働環境はよくなりますよね。

ゼロアグリは、地下部分の環境を制御し、作物の生長状態に合わせ、培養液を自動で供給する。ハウス内に置かれた土壌センサーで、地温、土壌水分量、土壌EC値を測定。ハウスの外に設置された日射センサーと、ハウス内の土壌センサーからの情報を合わせることで、現在の作物状況にあった最適な培養液量をゼロアグリが判断し、自動で供給する(資料:ルートレック・ネットワークス)

現在はさまざまな環境下でデータを集めている段階ですが、こうした技術革新が進むと将来的には新規就農者のリスクを減らすことも可能だと考えています。土地を購入する際に一定期間センサーを置いておき、そこで得られたデータを分析することで「この土地ならどの作物が最適で、いくらくらいの儲けがでるか」を事前にわかるようにしたい。そうすれば、借金をしても何年で回収できるか計算しやすくなり、投資しやすくなると思います。