日本の「食品ロス」、つまり、まだ食べられるのに捨てられてしまう食品は膨大な量に上る。農林水産省によれば年間で621万トン。世界の食品援助量が390万トンというから、ざっと1.6倍の食品が国内だけでムダに捨てられているわけだ。世界の9人に1人が飢えに苦しむ中、こうしたムダがいつまでも許されるわけはない。日本人にとって食品ロスの削減は国際的な責務とさえ言える。日本気象協会では、そんな状況下で、気象予報技術を活用した商品需要予測の事業をこの4月にスタートさせた。昨年までの実証実験では食品の廃棄ロスをほぼゼロにすることにも成功。今後ビッグデータやAIの活用によって、さらに予測の高精度化が望めるという。同協会でこの事業のプロジェクトマネージャーを務める本間基寛氏に、現状と今後の見通しについて聞いた。

――日本気象協会では、この4月から気象予報技術を活用した商品需要予測事業をスタートされました。まずその概要について教えてください。

本間 商品需要予測事業は、メーカー、卸、小売というサプライチェーンの中で、日本気象協会がハブ(拠点)となって、気象予報に基づいて商品需要を予測し、そのデータをメーカー、卸、小売の各企業に提供していくというものです。こうすることで、サプライチェーン全体の最適化を目指し、いろいろなムダを削減します。

具体的には、メーカー、卸、小売の企業は日本気象協会の提供する需要予測データを共有することによって、売れ残りや作りすぎなどの食品ロスや、売り切れなどによる販売機会を失う機会ロスを減らすことができます。さらに、返品や返送、廃棄が減ることによって流通過程でムダに発生する二酸化炭素の削減も目指します。

一般財団法人 日本気象協会 業務本部 防災ソリューション事業部 商品需要予測プロジェクト プロジェクトマネージャー 本間基寛氏(写真:高山和良)
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長期予測の精度が上がったことが背景に

――なぜ、このような事業をスタートされたのですか?

本間 全産業のうちの3分の1は何らかの気象リスクを負っていると言われています。であれば、いろいろな業界の方々にとって、気象が業界のハブになり得るのではないか、気象をハブにすることによってサプライチェーン全体の最適化、ムダの削減であったり生産性の向上につながったりするのではないかということからスタートしています。気象がもっと社会のお役に立てるのではないか、と考えながらこの事業を進めています。

これまでは、サプライチェーンの中で、メーカー、卸、小売の企業が個々に需要予測をされていましたが、そこに気象データが十分に使われていたかというと必ずしもそうではありませんでした。

さらに、背景には、気象データのうち、とりわけ長期予測の精度がここ最近で飛躍的に上がってきていることがあります。もちろん完璧ではありませんが、1カ月、あるいは3カ月先の予測精度はかなり高くなってきています。こうした精度の上がった長期予測のデータを企業の生産活動にもっと使っていただけるのではないかと数年前から着想して、本格的に取り組み始めたということです。

――気象協会がハブになるという意味はどんなことですか?

本間 これまでの需要予測は、サプライチェーンの各企業が個々に予測していました。メーカーからすると、自分たちが100しか売れないと予測しても、小売さんから110注文が来れば、それに応えなくてはいけません。数が足りなければ欠品になってしまい、ペナルティが発生することがあります。メーカーは、このリスクに備えるために常にバッファーを持たなくてはいけません。ムダが生じる一つの温床です。

気象協会がハブとなって、気象データに基づく客観的な精度の高い予測を提供し、メーカー、卸、小売で情報を共有化することができないか、それが実現できれば、メーカーが過剰なバッファーを持つ必要はなくなり全体としてムダが減るのではないかという考え方に基づいています。サプライチェーンの中で、それぞれの企業が単独で予測するとギャップやミスマッチが出てしまいますが、気象協会がハブとなることによってこうした問題が解消できます。

日本気象協会がサプライチェーン全体のハブ(拠点)となってロスを減らす(資料:日本気象協会)
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