「高分子フィルムの上で野菜を栽培する」――。日本のベンチャーが開発した新しい栽培技術が内外で注目を集め、静かに広がり始めている。一般的には、野菜が根を張るのは畑の土の中か、水耕栽培の溶液中というのが常識だ。しかし、この「アイメック」という技術では、野菜はフィルムの上に根を張る。フィルムを通して必要な分だけ水分と栄養を吸収する仕組みだ。実際にアイメック農法を採用して高糖度トマトを生産する農園が国内にじわりと広がっている。海外でもサウジアラビアやドバイなど中東諸国がアイメックに注目。アラビア半島の砂漠にトマト生産施設を作り、実際に稼働し始めている。アイメックを開発したのは神奈川県・平塚市にあるメビオールというベンチャー企業だ。技術の開発者であり、同社を率いるメビオール代表取締役社長の森有一氏に現状と今後について聞いた。

メビオール代表取締役社長の森有一氏。1965年から東レ、テルモ、米W.R.Graceなどで、カテーテルや人工血管など、高分子技術やハイドロゲルなどのメディカルプラスチックの研究・開発に携わってきた(写真:高山和良)

――まずアイメック農法の概要をお聞かせください。

 アイメックは、二つの機能を持った高分子フィルムの上に根を張らせるようにして作物を育てる技術です。長い農耕の歴史の中で農作物の栽培技術は土耕栽培、水耕栽培、点滴栽培という三つしかありませんでしたが、これらに続く第4の栽培技術です。この技術を使って、トマトをはじめ、きゅうり、メロン、イチゴなど様々な農作物を高分子のフィルム上で育てることができます。

高分子フィルム上で育つ水菜。果菜類だけでなく、葉物も栽培できる(写真:高山和良)

――どのようなメリットがあるのでしょうか? また、どのような仕組みなのでしょうか?

 アイメックと同じようにハウス内で野菜を育てる水耕栽培と比べると水のロスを減らすことができ、病原菌・ウイルスによる野菜の病気を抑えられます。それに加えて、野菜の糖度を容易にコントロールできます。

この技術では高分子フィルムに持たせた二つの機能を利用しています。

一つ目は、フィルムに開いたナノサイズの孔を通して作物の根が栄養素や水を吸い込む機能です。孔が小さいので菌やウイルスはフィルムを通過することができません。つまり、フィルムの下にある溶液がたとえ腐ったとしても病原菌やウイルスが植物側に来ることはないのです。フィルムがこの性質を備えているため、作物は病気になりにくく水のロスを抑えた栽培ができます。このフィルムの性質は、医療の世界における透析膜の持つものと同じです。もし透析の際に、人体に菌やウイルスが入ると敗血症になってしまいますから絶対に通してはいけません。フィルムに開いている孔のサイズがとても大事なのです。

もう一つの機能は、ハイドロゲルという物質が持つ高い保水性です。紙おむつに使われている技術で、1グラムのハイドロゲルで数ミリリットルの保水ができます。高分子フィルムにはこの性質を持たせています。この性質によってフィルムは中に水をたっぷりと含みながら表面はカラカラという状態が保てます。農作物を育てる際に「水を切る」という状態に当たり、こうすると野菜類の糖度は高くなります。つまり、甘くなるのです。実際に、このフィルムの上で育てたトマトの根を調べてみると、太い根から直径1㎛(マイクロメートル)ほどの細かい根、いわゆる根毛と呼ばれるものがびっしり生えていることがわかりました。この根毛がトマトを甘くします。根毛の発生は、フィルム表面が渇いていることで起こった現象です。

アイメック農法の原理。植物は高分子フィルムの上に根を張る。フィルムは水や栄養だけを通し、害虫や病原菌は遮断する(資料提供:メビオール)