日本ジビエ振興協会(長野県茅野市)は、「ブロックチェーン」技術を活用した国産ジビエ(野生の鳥獣の食肉)のトレーサビリティーシステムの試験運用を2017年10月から開始した。ブロックチェーンといえばフィンテック(金融技術)、特に仮想通貨ビットコインの基幹技術として広く知られているが、金融以外の分野でも注目されつつある。食材の安心・安全を担保するうえで、この技術の有効性が確認されれば、国産ジビエ市場を拡大する起爆剤となる可能性を秘めている。

ジビエは近年、外食業界で注目されている食材の一つだ。現在、日本で流通するジビエは8割以上が海外からの輸入物で、国産ジビエは全体の約2割を占めるに過ぎない。日本で捕獲されるのはほとんどがシカ、イノシシで、それぞれ年約60万頭(2015年度)が捕獲されているが、日本ジビエ振興協会によれば、食肉利用されているのは全国平均でたった5%ほどという。

国産ジビエは市場全体の約2割に過ぎない(写真提供:日本ジビエ振興協会)

なぜ、国産ジビエ市場は活性化しないのか。その理由について、日本ジビエ振興協会事務局の石毛俊治氏は次のように語る。

「国産ジビエは食肉の処理の仕方や流通ルートが整備されておらず、主な捕獲獣であるシカ、イノシシも長らく国に『食肉』として認められていませんでした。したがって食材の安心・安全を担保するシステムも未整備で、大手スーパーなどの取り扱いはなく、市場はなかなか広がらなかったのです」

日本ジビエ振興協会事務局の石毛俊治氏(写真:編集部)

流通ルートが十分に整備されてこなかったことで、いつ、どこで、だれが捕獲したかといったトレーサビリティー情報の共有も徹底されていなかった。

そこで国はジビエの食肉利用を推進すべく、2014年に厚生労働省の主管で『野生鳥獣肉の衛生に関する指針』を作成、処理や扱い方のガイドラインを示した。ジビエ肉が正式に『食肉』として認められたのである。「これで外食大手も関心を持ち始めたのです」(石毛氏)。

国がジビエ市場の拡大に乗りだした最大の理由は、野生鳥獣による農作物被害が年々増加しているからだ。年間の被害額は200億円にも達するという。狩猟者の高齢化が進むとともに人口も減少、現在の免許保持者は1970年代の4割にも満たないほど落ち込んでいる。

「食肉としてのジビエ消費が拡大すれば、狩猟が活発化して農作物被害が減少すると期待されています。また、食材として消費されれば、飲食店や特産品の製造など新産業への展開が考えられ、地方創生にもつながります」と、石毛氏は期待を込める。

こうした背景から日本ジビエ振興協会は、国産ジビエの安心・安全を担保するための食肉トレーサビリティーシステムの開発に着手、2017年10月から試験運用を開始した。なお、このプロジェクトは、農林水産省の鳥獣利活用推進支援事業に採択されている。

ブロックチェーン技術を食肉トレーサビリティーに利用

開発した食肉トレーサビリティーシステムの名称は「ジビエ個体管理システム」。最大の特徴は、一般にはフィンテックとして知られる「ブロックチェーン」技術を活用したことだ。データ改ざんを抑止する技術として、金融だけでなく、電力や物流などさまざまな分野で導入され始めたブロックチェーンを中核技術として採用した。

ブロックチェーンは「分散型台帳技術」と呼ばれ、一定の時間ごとにその間にあった取引を「ブロック」に記録する。その際、1つ前のブロックの情報も一緒に記録し、それぞれのブロックが時系列に沿って「チェーン」のようにつながり保存されるというもの。データを複数のコンピューターに同時記録、相互監視し、多数決の論理で、過半のコンピューターが持つデータを「正しい」と認識する。したがってデータを改ざんするには、改ざん以降のすべてのブロックを書き換えなくてはならず、しかもネットワーク内の過半のコンピューターで同時に改ざんする必要があることから、非常にセキュアなシステムを構築できるとされている。

なぜブロックチェーン技術なのか。最大の理由はコストだ。

「一般的なデータベース管理も考えましたが、複数の大型サーバーが必要になり、構築や運用のコストがかかります。しかし、ブロックチェーンの技術を使えば、複数のパソコンで『台帳』を共有すればいいので、費用を抑えることができます。また、牛肉や豚肉などとは異なり、ジビエ肉には既存の物流管理システムがなかったため、新しい技術を導入しやすかったことも大きな理由です」と、石毛氏は語る。

「ジビエ個体管理システム」は、テックビューロ(大阪市)が開発したSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)型のプライベートブロックチェーン技術「mijin」を採用している。SaaS型、すなわちインターネット経由でソフトが提供され、自前でソフトウエアを開発する必要がないのでコストを抑えられる。プライベートブロックチェーンとは、誰もが参加できるビットコインのような公開型とは異なり、参加者を限定した非公開型のブロックチェーンのことである。