人工知能(AI)は、ディープラーニングという要素技術の登場によって大きな進化を遂げ、コンピュータ技術の進歩に伴い、徐々に私たちの身近な生活の中に浸透しようとしている。前編で紹介したAmazon Go店舗や自動運転車での活用は、その最たる例といえる。ほかにも、医療、インフラメンテナンスなど様々なシーンで、画像解析にAIが採用されそうだ。AIの浸透によって、生活や働き方、そしてビジネスはどのように変わっていくのか。先進事例から未来像を見てみよう。

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ディープラーニングは人間では扱いきれない膨大なデータから、ある傾向を見つけ出したり、それに基づいて結果を予測することを得意としている。この特徴は、特にビッグデータを利用してそこからいろいろな傾向や可能性を導き出す場合に力を発揮する。

例えば、現在日本各地に設置されている地震観測用センサーからは、絶え間なくデータが集まってくる。マグニチュード2以下で人間が感じることがない微小地震は、ほんの1分の間にも無数に発生しているからだ。これらのデータを解析し、パターンを抽出していけば、大規模な地震の傾向を事前に発見できるかもしれない。また、インターネットに氾濫する膨大なブログを無作為に閲覧し、そこに掲載されている文章や写真を解析すれば、今どのような話題が注目されているのか、どのような商品が売れているのかといったことを、リアルタイムに解析できるかもしれない。

こうした膨大なデータから特定のパターンの存在を発見する作業は、人手ではかなり難しい。ディープラーニングとシミュレーションを組み合わせれば、AIが多様なパターンを学習し、自ら最適解を見つけてくれる可能性がある。

この仕組みを生かせる領域は様々。例えば医療などで、数々の画像を解析し、そこから疾病の兆候を見つけるケース。医師が診断を下す際のサポート役をAIが務めるわけだ。ほかにも、自動運転の実現のために人間に代わって状況判断するドライバー役など、AIには様々な用途で期待がかけられている。

AIによる画像解析システムが医療分野で威力を発揮

医療分野において期待されているAI活用の一つは医療画像の解析である。人間に代わって大量な医療画像を高速に解析し、肉眼では見落としかねないほどの小さな疾患の兆候をコンピュータに発見させる。実はAIという言葉が登場した1960年代頃から、既にコンピュータによる画像診断は注目されていた。だが、当時はハードウエア、ソフトウエアの能力が追い付かず、実用化は難しいとされていた。

その後、ディープラーニングが登場すると、各所でAI医療画像診断の実用化に向けた研究が進み始めた。医療系スタートアップの米Enliticが開発したAIによる画像診断システムはその一つ。ミリ秒単位で1枚の胸部X線画像を解析する。このスピードになると、人間の眼ではもはや画像は認識不可能。この解析によって、同社のAI画像診断システムは放射線科医よりも正確に肺がんを検出する(写真1)。精度は放射線科医よりも50%も高いという。既にオーストラリアの医療画像診断サービス事業者Capitol Healthが、Enliticのシステムを採用するなど、導入実績も出始めている。

(写真1)Enliticのシステムが解析した肺の画像
(Enliticの創業者Jeremy HowardのTED講演ビデオより引用)

医療分野でのAI活用に向けた動きはほかにもある。米Google傘下の英DeepMindは、ディープラーニングによる画像解析を医療に生かそうと研究を進めている。DeepMindが注力しているのは眼の疾患の発見である。

現在、加齢黄斑変性や糖尿病網膜症などといった眼の疾患の診療では、画像解析が積極的に利用されている。しかし、眼の画像は非常に複雑で解析が難しく、眼科医は分析に長い時間を要している。これに対してDeepMindは、英NHS(National Health Service:国民保険サービス)財団の協力により、人間が見落とす可能性のある眼疾患の兆候を、AIによって発見するアルゴリズムを研究している(写真2)。

(写真2)DeepMindが解析した眼のスキャン画像
(DeepMindのホームページより引用)

東京大学医科学研究所では2015年7月から、米IBMのWatsonを活用してがん研究を進めている。そのアプローチは画像解析ではなく、遺伝子情報の解析である。がん細胞の全ゲノム情報はおよそ60億文字分のデータに相当する。この膨大なゲノム情報を読み取り、インターネット上に存在する遺伝子変異に関連する研究論文や、臨床試験結果などの情報と照らし合わせ、がんの原因となる遺伝子変異を見つけ出そうとしている。

Watsonが1年かけて2000万件以上のがんに関する論文を学習した結果、2016年8月には60代の女性の遺伝子情報から、わずか10分で特殊なタイプのがんを発見。その女性は、適切な治療薬の投与ののち、数カ月で退院した。

他にも、2016年7月に東京で開催された「国際モダンホスピタルショウ2016」の中で、NECが電子カルテの診療データを解析する診断支援技術を、キヤノンが医用画像診断支援ソフトウエアを参考出展。国内でもITベンダーがAIを使った医療支援システムの研究・開発に取り組んでいる。