今のそれとは全く趣が異なる「未来の建物」を想像してみたことがあるだろうか。外観や性能はもちろん、内部の構造、建物としての機能など、様々な面で進化していく可能性がある。例えば建物が天候に合わせて形状や大きさを変えたり、建物が移動したりといったことさえ考えられる。広い意味での建物の“デザイン”が変わるわけだ。そうした進化を支えるのは素材の進歩とIoT。既にその断片は形を取り始めた。

2014年、米ニューヨーク市で「Hy-Fi」と称した建築プロジェクトが“展示”された。13メートルにもおよぶタワーを構成する素材は、廃棄トウモロコシの茎とキノコの菌を混ぜ合わせた1万個のブロック。当然ながら展示後にその場の土に還る有機素材である。

自然由来のブロックを使用したタワー(出典:http://www.thelivingnewyork.com/

プロジェクトを率いた建築家のデビッド・ベンジャミン(David Benjamin)氏は、新素材による次世代建築に思いを馳せる。コンクリート利用が常識となっている現代建築に風穴を空け、代替となり得る素材を探ろうとしている。バイオ由来の素材はサステナビリティ(持続性)の面から見ても地球に優しく、研究が進めば生物のように自発的に温度をコントロールできる壁材が完成する可能性も夢ではない。

今までとは全く異なる価値観で建築デザインを捉える――こうした考えを持つのはベンジャミン氏だけではない。スイスを拠点に活動する建築家/デザイナーのマイケル・ハンスマイヤー(Michael Hansmeyer)氏は細胞分裂にヒントを得て、予想もつかない円柱デザインを次々と発表している。それらはまるで宇宙から来た生物にも似た造形だが、もとは単純な立方体をコンピュータによる独自アルゴリズムで折り紙のように折って構築したものだ。彼はこの試みを「Digital Grotesque」と名付けた。

Digital Grotesqueのイメージ(出典:http://www.michael-hansmeyer.com/

米西海岸で活躍するドリス・キム・サン(Doris Kim Sung)氏は、皮膚のように柔軟に形を変えられるバイメタルを用いて未来の建築に挑む。もともと大学で生物学を専攻した後、建築に転じた彼女は「人間の体の延長で建築を捉えることはできないか。これを感覚的に研ぎ澄ましていくにはどうすればいいのか」を命題として、素材の形状変化に電気的エネルギーを必要としないバイメタルに着目した。

バイメタルは熱膨張率が異なる2枚の合金から成る金属板で、原理自体は18世紀に発明された。現在でも温度計、サーモスタットなどに生かされているが、彼女はこれを建築用素材として壁、天井、床など住宅のあらゆる部分に活用したいと考えている。過去に手がけたプロジェクトでは、米ロサンゼルスでの実証実験「Bloom」が有名だ。

Bloomの様子(出典:http://dosu-arch.com/

Bloomでは1万4000枚のバイメタルシートを貼り合わせ、日中の太陽光に反応する仕組みとした。暑いときはメタルの一部がめくれて風通しを良くし、寒いときはメタルが閉じて隙間をなくし、防寒性を高める。ここには電気やコンピュータによる制御は一切なく、太陽光の向きで開閉を自然調整する。彼女は「人間の汗のように、自然に水分を放出する建物ができれば」と力説する。現在はバイメタルによる建築の商用化を目指し、研究を続けている。