環境中の未利用エネルギーを電力化する“エネルギーハーベスティング”――。東日本大震災の電力対策の一つとして注目を集めたが、得られる電力の小ささが障壁となり関心は鎮静化した。だが今、IoT(Internet of Things)への希求が追い風となって再び耳目が集まり、各方面で開発の取り組みが始まっている。

スマートファクトリー、スマートアグリカルチャー、スマートハウス、自動運転、次世代ヘルスケア…。モノが通信ネットワークでつながることで、次々に新たなサービスやビジネスが生み出される。

当然、通信機器だけでなく、身のまわりの空間には各種センサーや送受信装置などが浸透していくことになる。ただ、今の技術では、IoTにも限界がある。問題は電源。膨大な数のセンサーや通信ノードをすべてケーブルでつなぐのはおよそ非現実的だ。今までネットにつながっていなかった環境ほど、電源も確保しにくい。そこにIoTを導入していくには、自立電源は必須の技術である。

もちろん、電池を使うことで済む場面もある。電池の小型化が進み、形状の自由度を高めることもできるようになったことで、IoTを適用できる領域が広がっていることは事実だ。それでも、電池には必ず寿命があり、一定期間を過ぎれば充電や交換は避けられない。当然、そこには人手が必要になる。究極のIoTを実現するには電源の自立化が不可欠で、これはすなわちデバイス自らが周囲からエネルギーを取得するエネルギーハーベスティング(以下、EH)となる。逆に、センサーなどにEHを組み合わせられれば、IoTは劇的に加速する可能性がある。それは社会の多方面で大きな変化を生み出すはずだ(表1)。

(表1)エネルギーハーベスティングの実用化例
出典:NTTデータ経営研究所『情報未来』No.52(2016年10月号)の「IoT実現に必要となるエネルギーハーベスティング技術」

見過ごされていたエネルギーを“刈り取る”

EHは、「発電というよりも、これまで見向きもされなかったエネルギーを刈り取る(収穫=ハーベスティング)技術だ」(エネルギーハーベスティングコンソーシアム事務局を務める、竹内敬治NTTデータ経営研究所シニアマネージャー)。いろいろな場所に潜んでいる振動、回転力、摩擦、温度差、音、光などのエネルギーを電気に変える技術である。

自立電源というと、再生可能エネルギーなどと同列の視点を持ちやすい。もちろんEHの日本語訳である「環境発電」という観点に立てば、近いものではある。ただ、ここで言っているEHは、電池に較べてもはるかに小出力の、わずか数mW~数十μWの発電で駆動できるIoTデバイスでこそ真価を発揮するものだ。「ここ数年で環境から電力を生み出す技術や、センサーや通信の省電力化技術が急進した。これらからEHの無数の可能性が見えてきている」(竹内氏)。

分かりやすい例が、いわゆるスマートハウスである。既に人感センサーや音響センサーを使った照明や空調の制御は実現している。ただ、自立電源化によりセンサーノードの密度が増加すれば一層の高機能化が可能となる。例えば、振動や温度差などで発電するEHユニットを加速度センサーと組み合わせ、屋内各所に設置する(写真1、2)。

(写真1)エネルギーハーベスティング・ユニットと加速度センサー
写真提供:モノワイヤレス
(写真2)振動無線タグ
写真提供:モノワイヤレス

こうすることで、人やモノの出入管理や転倒など事故を即座に通知するシステムを実現できる。電源工事や電池交換の手間は要らない。その分のコストもかけずに済む。実際、スイッチを押す動作で発電して制御信号を無線発信するリモコンはすでに実用化されており(TOTOの「エコリモコン」など)、実現不可能な仕組みではない。

工場など生産設備では、機器の運転管理や部品製品の移動管理などの省電力と高機能化が期待できる。例えば台車などのキャスターに組み込みその回転で発電するEHユニットは既に開発されている。これを使えば、工場やオフィス内のどこで何が動いているかを容易に管理できるようになる。農業では太陽光や温度差で作動する環境センサーを圃場に綿密に配置することで、生育状態の精密管理や気象変化に即応した高精度な生産管理が可能になる。

何より大きいのは、常時作動が要求される安全管理やセキュリティ、福祉(見守り)分野でセンサーネットワークを構築できることだろう。万が一にも電池切れが起こっては困る、これらのネットワークを普及させるには、EHによる不断の電力供給が欠かせない要素となる。

ビルや橋梁など建築物では、各部に腐蝕や変形を感知するセンサーを配置しての老朽化や震災異常などの常時監視が容易になる。また、自動車の振動や人が歩く振動により災害による電力途絶時でも点灯する案内灯や、監視カメラなど防犯設備の自立電源化は、都市の安全性や快適性向上に寄与する。窓防犯センサーの電池交換は1つの警備会社で年間約10万個に及ぶというが、これをEHで自立電源化できれば膨大な電池コストと作業コストの低減になる。振動発電式の発信器を靴などに埋め込むことで、子供の行動管理や徘徊老人捜索に役立てるアイデアも検討されている。