センサーや通信装置の自立電源化を進め本格的なIoT(Internet of Things)を加速するエネルギーハーベスティング(EH)。そのエネルギー源と “収穫”方法の組み合わせは多様で、アイデア次第でEHの用途は様々なシーンに広がる。今回は、未利用エネルギーを収穫するデバイス技術を具体的に紹介しよう。

EHのエネルギー源としては、一般に、可視光、運動(力学的エネルギー)、熱、電波の4カテゴリーが挙げられる。このうち最も応用が進んでいるのは力学的エネルギーEHである。

力学的エネルギーEHの原理は大きく3つ。(1)発電機と同様にコイルと磁石の組み合わせで発電する電磁誘導型、(2)帯電した物体の近傍で振動させた電極の中に発生する電荷の偏りを電流として取り出す静電誘導型、(3)変形で電圧を生じる素子(結晶体やセラミクス、金属積層体など)に力を加えて発電する圧電素子型である(図1)。

[画像のクリックで拡大表示]
(図1)力学的エネルギーを使うエネルギーハーベスティング

ただ、収穫するエネルギーはもともと密度が低く、想定されるセンサーなどのデバイスも小型化が必要で1つのデバイスで収穫できるエネルギー量は非常に少ない。また、どのシーンでも利用できる万能な方法がないため、効率を上げるには発生源や状況に特化した発電原理を用いる必要がある。

実は、これは他のEH技術にも総じて当てはまる。このためEHは、利用シーンや目的に合わせて、エネルギー源や収穫を最適化する手段が必然的に多様化する。裏返せば、エネルギー源や収穫方法、そのためのデバイスの変化があれば、EHの適用範囲はどんどん広がっていくといえる。

新しいEHの可能性開拓が進む

それを象徴する例が、これまで注目されていなかった新しいエネルギー源である。代表的なのが「グルコース燃料電池」だ。グルコースは有機化合物の一種。動植物のエネルギー源となっている物質で、生体の血液中などに存在する。これを用いて電力を発生させ、インプラント機器をはじめ体内センサーなどの駆動電力源にするアイデアである。

ここ数年、医薬品とICTを組み合わせて服薬管理の精度や利便性を高める取り組みが進んでいる。例えば大塚製薬と米プロテウス・デジタル・ヘルス社が開発したデジタルメディスンなどが耳目に新しい。

これらと同様なデバイスをEHで常時給電できれば、“飲むセンサー”がさらに便利になるほか、体内に常駐して見守りを続けるセンサーも現実性が高まる。グルコースは完全な未利用エネルギーではないが、EHに端を発して未来を変えうる技術が誕生するかもしれない。

膨大なリソースを活かせる電波EHにも期待がかかる

以前から挙げられてきた4カテゴリーにも進歩が見られる。例えば電波を使うEHだ。

テレビ、携帯電話、Wi-Fi、無線LANなど現代の都市空間には、膨大な電波(電磁波)が飛び交っている。これを様々なデバイスを動かすための発電にも利用できるとなれば、そのインパクトは極めて大きい。ただ電波は、特にエネルギー密度が低く実用的な電力を発生させにくいため、4カテゴリーのEHの中でも利用しづらいとされる。

そうした中で、新しい可能性として注目されているものの一つが、ワシントン大学で開発中の「Ambient Backscatter」だ。自らは電波を出さずに周囲を飛び交うWi-Fi信号を選択的に反射・吸収(後方散乱;backscatter)することで、他のデバイスに信号を送る。通信速度は高くないものの、きわめて少ない電力で作動する特徴を持ち、電波EHでの応用が期待される。

米国ジョージア工科大学(Georgia Institute of Technology)が開発している「可視光レクテナ」も注目技術の一つである。レクテナ(Rectenna)とはRectifying Antennaの略語で、アンテナと整流回路で構成された電波→電力の変換デバイス。無線給電技術として開発が進んでおり、すでにレクテナ応用のセンサデバイスパッケージも登場している。

ジョージア工科大学の可視光レクテナは、例えば金属製多層カーボンナノチューブを用いた独自構造のアンテナなどにより、可視光を電磁波として捉えて高効率で電力を生む。電波レクテナに較べ各段に小型化でき、太陽電池同等の効率が10分の1のコストで製造できる可能性があるという。

「デバイス消費電力がμWオーダーになれば、ごく小さなアンテナのEHで駆動が可能。開発に時間は必要だが将来の可能性は大きい」(エネルギーハーベスティングコンソーシアム事務局 竹内敬治氏)。小型化や多様な電波状態への対応の難しさ、高周波ノイズの抑制など、電波EHを実現するうえでは、ほかにも課題は多くあるものの、可能性は高まっている。