「スマートフォンを商品に向けると商品説明が始まる」「交差点に近づくと信号機がクルマや歩行者に道を教える」「工場などにある多数の機械の稼働状況をカメラ1台で同時に把握する」。今後、こうしたことが日常生活に浸透していくかもしれない。ポイントは情報伝達手段として“光”を使うこと。人間の目では感知できない光の点滅を制御することで、通信の用途でも使える。LEDの普及とともに、利用シーンが広がりそうだ。

今や、私たちの生活はネットワークインフラによって支えられ、今後もワイヤレス通信の役割が重要になってくる。しかし電波による通信は、どこでも使えるとは限らない。例えばWi-Fiをはじめとする無線通信は、どうしても電波が届きにくい場所が生じる。騒音などノイズの影響を受けやすいケースもある。「人体への電磁波の影響から、送信電力を上げられない」「精密機器への悪影響が考えられる環境では利用できない」「電波法による制約から、広帯域な無線周波数を自由に使うことができない」といった制約もある。

これを補い、より自然な形で私たちの生活に利便性をもたらしてくれる情報伝達手段として、可視光通信がある。光による通信は電波による通信の短所を埋める特徴を持っているとして、1990年代に白色LEDが発明されて以来、実用化に向けた研究が進められてきた。人体への影響や法的な制約が少ないうえ、精密機器への影響も考えずに済む。設定によっては電波よりも高速で安定した通信が実現可能だ。テレビやエアコンのリモコンなどで使われている赤外線通信も光通信の一種だが、LEDの光は人間の目にも見えるために可視光通信と呼ばれ、最近になって国内外の機関(IEC、JEITA、IEEE)によって規格も標準化された。

現在、LEDからの信号を受信する方法としては、デジタルカメラやスマートフォンのカメラに搭載されているイメージセンサーを使う方式と、専用のフォトダイオードを使う方式の2種類がある。イメージセンサーを使った通信はデータ伝送速度こそ高くないが、受信者側に専用のデバイスが必要なく、ブローキャスト型のサービスに広がっていく可能性がある。

屋内施設で情報提供サービスに活用

イメージセンサーによる可視光通信では、人の眼では感じ取れない範囲での点滅の制御によりID信号を配信する。カメラ(イメージセンサー)をLED照明などの光源に向ければ、このIDを受信できるわけだ。光源から光を直接受光せずに、光が当たっているモノにカメラを向けることでも、反射光に埋め込まれた情報を受け取れる。この特徴を生かし、パナソニックや富士通では、美術館や博物館、百貨店などで展示品や商品を照らすスポットライトにIDを埋め込ませ、カメラを向けるだけでそれらに関する情報をスマートフォンの画面に表示させるシステムを開発している。

実際には光信号で送っているのはID情報だけで、スマートフォン側では、そのIDを基にインターネット経由で情報をダウンロードする。スマートフォンを使ってモノを識別してネットから情報をダウンロードするサービスとしては、QRコードやNFC、Bluetoothなどを利用したものがある。ただ、これらは対象物にQRコードを貼り付けたり、チップを埋め込んだりする必要がある。可視光通信なら対象物に光を当てるだけで済むため、導入コストや手間を抑えやすい。また、少し離れた位置からでも情報が得られるため、利用者側の利便性も高い。

屋内店舗における情報提供では、店内のLED照明が発する位置情報をスマートフォンで受信させ、利用者が興味を持っている商品の売り場へ誘導するサービスが実用化されている。フィリップス ライティングの「インドア ポジショニングシステム(屋内位置情報システム)」では、可視光通信によって数十センチの精度で位置情報や方位情報を得ることができる。このシステムを使って、商品までの店内経路案内や現在位置近くの食材を使った料理のレシピ、その日のお買い得情報などを利用者に提供するわけだ(図1)。既に、フランスのスーパー「カルフール」やアラブ首長国連邦のスーパー「アスワーク」で導入されている。

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(図1)フィリップス ライティングのインドア ポジショニングシステムによるサービス例
カレーを作りたいとアプリに入力した利用者が興味を引きそうな食材の売り場に誘導し、値引き情報やお奨めのデザートなどの情報も提供する。(フィリップス ライティングの発表資料より引用)

もちろん、既存の通信技術でも実現できる。ただ、可視光通信では専用の照明装置が必要になるものの、それ以外は既存の設備を流用できるため、工事などにかかる設備投資を抑えられる。また、設備工事に制限がある古い建物でも利用でき、歴史的建造物などにおいてもサービスの提供が可能だ。

将来、屋外でも日光や天候に影響されない可視光通信を実現できれば、街中での情報提供サービスにも適用できる。既に設置されている看板や案内板などにスポットライトを当てるだけで情報提供できる。富士通ではプロジェクションマッピングで建物に投影した光からもイメージセンサーでIDを検出する実証実験に成功している。活用の幅が広がっていきそうである。