車いすに乗った患者を院内の施設に自動的に誘導してくれるスマートホスピタル。新幹線の中での高速通信ネットワーク。海洋での水中通信。LEDを使った可視光通信により、通信できる場面が広がり、新たな価値が生まれる。今回は、専用の光通信デバイスを使った、双方向の可視光通信が生み出す未来のシーンを見てみよう。

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光信号にID情報を載せ、スマートフォンのカメラなどで情報を受け取れるタイプの可視光通信は、前編で紹介したように、私たちの生活を便利にする様々なサービスを実現できることから、期待が高まっている。ただ、この方法では、通信速度が高くても数kビット/秒程度。Wi-Fi(無線LAN)などに比べると格段に遅く、容量の大きなデータのやり取りや、頻繁にやり取りする通信には適さない。

ただ、デジタルカメラのイメージセンサーを使うことにこだわらなければ、この課題はクリアできる。LEDからの光信号をフォトダイオードなど専用の光通信デバイスで受光する方法だ。これなら、Wi-Fiを超える高速通信が実現可能になる。

可視光通信によるワイヤレス通信はLi-Fi(ライファイ)と呼ばれ、理論上の最高通信速度は224Gビット/秒である。病院など電波による通信が適さないとされる場所・場面、厳重なセキュリティを必要とするオフィスのような場所にも活用しやすい。Li-Fiには専用のLED照明装置の施設が必要で、パソコンやスマートフォン側にも専用のデバイスが必要になるため、Wi-Fiのように誰でもが日常的に利用できるようにするにはまだ時間がかかる。ただ、産業分野では既にその特性を生かした活用シーンが考えられている。

Li-Fiでスマートホスピタルを実現

医療機器のポータブル化が進んでいる病院だが、電波が精密機器に与える影響を避けるためにワイヤレスインフラの導入は必ずしも進んでいない。こういった環境では、電波を使わないLi-Fiの活用が期待される。

院内でのLi-Fiの活用例の一つは、スマートフォンやタブレット端末で、どこでも電子カルテを見られるようにすること。ほかに、医療機器間のケーブルレス化によって機器の減菌処理の負担軽減や、信頼性向上、接触不良の改善なども期待できる。廊下のLED照明から位置情報を発信することで、入院患者を電動車いすに乗せて診察室や検査室に自動誘導したり、患者を乗せたベッドや医療機器を乗せたワゴンなどの動線をナースステーションで管理したり、といったことも可能になる(図1)。

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(図1)台湾ITRI(Industrial Technology Research Institute of Taiwan)が進めている病院内での可視光通信の活用例
院内で位置情報システムなどを活用することで、ナース業務の効率化と負荷の軽減を図っている。(資料提供:可視光通信研究倶楽部)

LED照明を使った位置情報による制御は、病院だけでなく屋内の様々な場所で活躍するロボットなどにも適用できる。ロボットの自律走行のために位置情報を活用するだけでなく、階段の場所などをLED照明で知らせれば、危険を回避できる。

またLi-Fiによる通信は、壁などで区切ることが難しい電波に比べ、セキュリティ面でもメリットがある。壁などで明確に区切られた部屋の中であれば、遮光カーテンなどを使って窓から光が漏れないようにすることで、第三者によるネットワークへの侵入、通信の盗み見を回避できる。Wi-Fiなどの電波の場合は、壁全体に電波を遮断するシートを張り付けるなど、コストと手間がかかる作業が必要になる。

デバイスとデバイスを向き合わせることで、1対1のワイヤレス通信も可能になる。これによって、さらにセキュリティの高い用途での利用が考えられる。最近では、自動車のスマートキーが発信する微弱な電波を傍受して自動車を盗む手口が増えている。このスマートキーを可視光通信に置き変えれば、車の受光部とキーの発光部を向き合わせて信号が盗まれることを防げる。