――世界の水需要は2050年までに約55%増となると予想され、その結果、世界の人口の少なくとも40%が深刻な水ストレスのある地域に住むことになる――国際連合の『世界水発展報告書2014』に示された予測だ。

日本では水不足を痛感することは多くない。2017年夏、埼玉と東京に水を供給する荒川水系で、23年ぶりの20%取水制限が実施されるなど、都市周辺での水環境は確実に悪化しているものの、決して恒常的な話ではない。ただ、世界に目を向けると水問題は非常に深刻で、上記の水発展報告書は、現時点でも世界中で推定約7億6800万人が改善された水源にアクセスできないとする。

さらに、冒頭に挙げたように、今後その深刻さは増していく。これが見えている未来である。

地球上には約14億立方kmの水があるとされるが、そのうち淡水は約2.5%の3500万立方kmのみ。さらに人間が利用可能なのは河川や湖沼、地下水など1000万立方km強で水全体の0.8%未満にすぎない。それも限られた地域に偏在するため、特定の地域で渇水が極端に深刻化する。さらに近年では製造や発電、生活用水の需要が激増して、水環境の悪化は加速している。現在の水需要は約4兆トンだが、2025年には5兆トン、2050には6兆トンを超えるという試算もある。

この課題を解決するには、より優れた水管理・水処理技術と思想が求められる。

関心高まるバラスト水問題

日本の降水量は世界平均の2倍を超えるものの、人口密度が高いために1人当たりの水資源量は世界平均の約半分しかない。それでも工業用水や生活用水の需要増大に対応して経済発展を続けてこられたのは、地下水などが豊かな環境に加え、優れた水管理技術によるところが大きいとされる。

この日本の高度水処理技術の一つが、近年関心が高まっている「バラスト水」への対策である。バラスト水とは、船舶が航行安定性を確保するために、積み荷重量に応じて船内に注排入する海水のこと。通常は荷下ろしをした港湾内で注水し、荷を積み込む港で排水する。国際海事機関(IMO:International Maritime Organization)によると、船舶によって年間30億トンから50億トンのバラスト水が国際移動しているという。バラスト水に含まれる微生物や生物の卵・幼生などが他地域に移動することで、生態系に影響を与えかねない、というのがバラスト水問題だ。

対策を講じるべく、IMOは2004年に『バラスト水管理条約』(正式名称は「船舶のバラスト水および沈殿物の規制および管理のための国際条約」)を採択。2017年9月8日に発効した。今後は新造船はもちろん現在航行中の船舶も対策が必要になる。

この10年ほど、条約の要件を満たす処理システムの開発が各国で進められおり、日本でも熱殺菌や紫外線照射、フィルタろ過などさまざまな技術開発が進む。一例が、2017年3月に国土交通省の相当指定(形式指定)を取得した、パナソニック環境エンジニアリングの「ATPS-BLUEsys」。取水配管内に電気分解装置を設置して、特殊な攪拌により殺菌、電解副生物や海水中のごみの除去を行う。他にも日本のさまざまな水の技術に、世界から期待が寄せられている。特に都市や工業設備からの排水浄化による再生水の生成、海水の淡水化といった利用可能な水資源の創出は重要だ。

従来の基本技術「活性汚泥法」は消費エネルギー大

基本的な対策は、産業排水や都市排水の浄化により、水資源へのダメージを減らすこと。現在、処理技術の核になっているのは活性汚泥法である。排水など汚水の中で大量の好気性細菌を繁殖させ、汚濁物質を吸収分離、あるいは分解させる。そして比重が大きくなって沈降した細菌を沈殿として取り除く。この水を環境に戻せば自然の水循環によってさらに浄化され、雨水や河川水など再利用できる水資源になる仕組みである。

だが、この活性汚泥法には大きな難点が2つある。一つは好気性細菌を繁殖させるのに大量の空気を水に混ぜ込む(曝気)必要があり、このための水や空気循環で用いるポンプ駆動などで、膨大なエネルギーコストがかかる。現在、日本の全消費電力の0.7〜0.8%もの電力が、曝気のために消費されているという。

また、有害物を吸収した細菌の沈殿である「汚泥」は水分を含んだ泥状物質で、再利用や処分のためには分離や脱水などの工程が欠かせない。つまり、さらにエネルギーが必要になるわけだ。活性汚泥法は、1970年代から約半世紀にわたり、日本を含め多くの都市で利用されてきた。逆に言えば、技術進歩はあまり進んでいない。いま、次世代に向けての省エネ省コスト性に優れた新技術が切望されている。