SF映画で描かれる未来の生活の中で、必ずといっていいほど登場する空飛ぶクルマ。クルマが空を埋め尽くしている様子は、昔から人類が夢に描いてきた未来都市の象徴ともいえる。今はまだ、その姿を目にすることはないが、夢を現実にしようとする取り組みは世界のあちらこちらで進められ、海外では多額の投資も見られている。2020年までには、何らかの形でプロダクトが登場しそうだ。

最近では、ドローンを大型化して有人飛行ができるパーソナルビークルもいろいろと開発されており、それらも空飛ぶクルマと呼ばれている。しかし、民家の上空などでは無人のドローンでさえ自由に空を飛ぶことが許されていない現状を考えると、自宅から飛び立って空を移動する自家用車を実用化するには解決すべき課題が多すぎる。

これに対し、「一般の道路を走行でき、空中も移動できる自家用車」なら、都心や住宅密集地では道路を走り、人家のない場所では空を飛ぶという移動方法が可能になる。どこにでもドアツードアで移動できる乗り物を実現できるだろう。

当然、現在のドローンよりもはるかに重量のあるモノを運ぶことができるし、道路と空路を併用することで、到達距離も延ばしやすくなる。実装の仕方次第だが、充電のインタフェースを電気自動車(EV)と同一のものにすれば、より使いやすい。これに自動運転の仕組みを搭載すれば、「空飛ぶ自動宅配ロボット」「操縦士の要らない空飛ぶドクターカー」などもできそうだ。

飛び立ち方の違いで2タイプに分かれる

現在想定されている空飛ぶクルマは、形状や飛び立ち方によって2つのタイプに分けられる。一つは、道路走行中は翼を畳んでおき、離陸の際に翼を開いて滑走路から飛び立つタイプ。もう一つはプロペラを装備し、ヘリコプターのように垂直に離陸できるタイプだ。

滑走路が必要なタイプのクルマは、飛んでいる姿は飛行機そのものに見える。2017年春のモナコの自動車ショーにおいて先行予約受付が開始された「AeroMobil」(写真1)も飛行機タイプの空飛ぶクルマで、2020年には市販される予定だ。AeroMobilは2.0リットル水平対向4気筒ガソリン・ターボエンジンを搭載し、道路走行時と飛行時で動力の得方が異なるハイブリッド方式である。具体的には、走行時はエンジンを使って発電した電気でモーターを回し、飛行時はエンジンのパワーで後部についたプロペラを回す(写真2)。全長は6メートル弱、全幅は2メートル超なので通常の乗用車よりも一回り大きなサイズだが、飛行モードで翼を広げると全幅は8メートルを超える。同時搭乗者数は最大2人で、自動車時は最高時速160キロメートル、飛行速度は360キロメートルとなっており、1回の給油で最大750キロメートル飛ぶことができる。これは、日本では東京から広島の先までノンストップで飛行できることになる。

既に欧州では飛行の許認可は取得済みで、市販モデルの価格は120万ユーロ(約1億4000万円)から150万ユーロ(約1億7500万円)となる見込み。2020年にまず500台を生産し販売するとしている。その後、米国、中国に販路を拡大する計画である。

(写真1)AeroMobilのプロトモデル「AeroMobil 4.0」
翼を畳んだ状態(左)で道路を走行し、飛行時は翼を広げる(右)。(AeroMobilのホームページより引用)
(写真2)車両が走行モードの時はプロペラも畳まれる
(AeroMobilのホームページより引用)

MITの卒業生によって2006年に設立されたTerrafugiaが手掛ける「Transition」(写真3)も、道路走行時は翼を折り畳み、飛行時は翼と車体後部のプロペラを使って飛行機のように滑走してから飛び立つ。車体はカーボンファイバーでできた2人乗りで、車両形態から飛行機形態までは30秒ほどで変形可能だ。

既に何度もテスト飛行を行っており、今後3年以内の販売開始を目指してWebサイトから予約を受け付けている。こちらも1基のガソリンエンジンを搭載。自動車時は後輪駆動によって時速105キロメートルで走行、飛行時は最大時速185キロメートルで飛べる。なお、Transitionはアメリカではライトスポーツ・エアクラフトのカテゴリーに分類されるため、教習時間が20時間とかなり短時間で飛行ライセンス(スポーツパイロット)が取得できる。

(写真3)Terrafugiaの「Transition」
(Terrafugiaのホームページより引用)

ヘリコプタータイプなら滑走路が不要

滑走路を使わずに垂直に上昇するタイプの例は、オランダのPAL-Vが製作する「Liberty」(写真4)。2018年末からの市販を予定している。路上走行用に100ps、飛行用に200psの2基のエンジンを搭載しており、滑走路を使わずにその場で垂直に上昇する。Libertyは地上では3輪車として走行し、プロペラは折りたたんでルーフに格納される。

定員は2名で全長は4メートルと乗用車に近く、車用の駐車場に止めることを想定している。価格は49万9000ユーロ(約6000万円)。PAL-VのWebサイトでは既に、Libertyのパイオニア・エディションの受注を開始している。6000万円という価格には、ヒーターなどのパーソナリゼーション・オプションやフライト・レッスンも含まれている。当初は90台の販売を目指しており、そのうち半数は欧州市場に向けてのものとなる。

この90台の販売が終わった後には、スポーツ・モデルの販売を計画している。スポーツ・モデルは29万9000ユーロ(3600万円)という価格設定でパイオニア・エディションのようなパーソナリゼーション・オプションはなく、フライト・レッスンもオプション扱いとなる。

Libertyは専用のスマートフォンアプリを使って、リアルタイムに飛行計画を立てることができる。例えば、現在地から到着地まで移動する際に、現在の風速や乗客の重量、荷物の重量などのパラメーターを考慮して、地上の道路を走る場合と空を飛んだ場合でどれだけの時間が節約できるのかなど、さまざまな旅行のシナリオが提案される。

(写真4)PAL-Vの「Liberty」はコンパクトなサイズで自動車用の駐車場に止めておける
(PAL-Vのホームページより引用)