砂漠に置かれた太陽電池から作られる食品。水なのにお酒を飲んでいる気分にさせるグラス。牛肉に魚の脂肪が組み合わされたヘルシーな肉。未来の食に求められるのは、人口増加による食糧不足の課題を解決しつつも、美味しいものを食べるという楽しみを犠牲にしない、地球にやさしい食べ物を作ることだ。

日本では人口の減少が心配されているが、地球レベルで見れば今後も人口の増加が予想されており、ますます食に関する課題解決が求められるようになる。国連の食糧支援機関であるWTFによれば、現時点でも約7億9500万人が、健康で活動的な暮らしを営むために十分な食糧を得られず、栄養不良に苦しんでいる。

そんな中でも、おいしく食べる歓びへのニーズはなくならない。そんな未来の食を支えるには、現在のような農水畜産物だけでは十分とはいえない。

打開策の一つは、農水畜産物の新たな製法/育成法。分かりやすい例は植物工場での野菜生産である。マグロや鮭、エビといった魚類を室内で育てる陸上養殖も実用化に向かっている。加えて、二酸化炭素と水から人工的にタンパク質を作り出す「人工光合成」など、従来の農水畜産物とはまったく異なる製法/育成法も現実味を帯びつつある。

別の策としては、大豆をはじめとする代替食品、食用昆虫などの新たな食材、それらを抵抗なく食べられるようにする加工方法も、取り組みが進んでいる。もちろん、それらを受け入れる新しい食文化を醸成していく必要がある。以下では、未来の食文化につながる動きを紹介しよう。

一つの手段は人工光合成、食用タンパク質の生成にも成功

フィンランドのラッペーンランタ大学(LUT)とVTT技術研究センターは、電気と水、二酸化炭素を使用して人間の食品用および動物の飼料用として利用可能なタンパク質を作り出すことに成功した(写真1)。いわゆる人工光合成である。このプロセスでは理論的に、製造過程においてすべての原材料を空中から入手できる。太陽光エネルギーなどの再生可能エネルギーが利用可能な場所であればどこでもタンパク質を製造できるわけだ。

このプロセスでは、大豆などによる光合成から得られるエネルギーと比較して、10倍近いエネルギー効率で食物を製造できる可能性がある。現在は、コーヒーカップ程度の実験装置を使用して約2週間でやっと1グラムのタンパク質を生産できるが、このプロセスはいずれ短縮される。また、飼料代替物としてタンパク質を作る場合、従来の飼料生産法と比較して温度や湿度、特定の土壌タイプなどの制約がなくなり、完全に自動化されたプロセスで生産できる。現在のところ、10年後の実用化を目指している。

(写真1)電気から作られたタンパク質による粉末(上)とタンパク質を作る装置(下)
(Lappeenranta Technology of Technologyのホームページより引用)

米Perfect Dayはビールの製造などに利用されるクラフト醸造に似たプロセスを利用し、酵母と発酵技術を使って乳牛と同じ乳タンパク質(カゼインとホエイ)を作り出した(写真2)。このタンパク質を使った乳製品では、大豆やグルテン、乳糖を含まないものの、通常の乳製品と同じ味や質感、栄養価を実現できるという。

Perfect Dayが開発したのは、乳タンパク質を生産できる酵母。バイオテクノロジーを使用して、パンやお酒を作る時に使われる酵母菌の一種に、牛のDNAを挿入する。DNA配列の再現には3Dプリンターが使われている。通常、酵母菌は糖からアルコールを作るが、同社の酵母菌は、糖から、牛乳に含まれるタンパク質を作る。2018年にも製品の出荷を始める計画だ。酵母を使った人工食品としては、Perfect Dayとは別に、米Clara Foodsが人工卵白を製造する技術を開発している。これらが安全に食べられる食品として実用的になれば、食材ががらりと変わっていく可能性がある。

(写真2)Perfect Dayが開発した牛乳の製品イメージ(Perfect DayのInstagramより引用)

地球にやさしい畜産工場を都心に作る

別のアプローチもある。室内で現在、都心のビルで野菜を育てて収穫する植物工場と同様に、ビルの中で食用の肉を作る「細胞農業」がそれ。細胞農業によって生み出されるのは「培養肉」である。培養肉とは、動物から細胞を取り出して人工的に増殖させて作る食用肉で、再生医学から派生した組織工学に基づく技術である。従来の畜産と違って、動物を殺さずかつ低環境負荷で食肉を生み出すことができる。

実際に培養肉を使ったハンバーガーの公開試食会が、2013年にロンドンで開催された(写真3)。試食した人の感想は「噛み応えがあり、焼いてみると肉の香りがする」ということで、見た目も味も肉に近いものだったようだ。ただ、当時は200グラムの純粋培養肉を作るために、研究開発費も含めて約3000万円ものコストがかかっている。

(写真3)ロンロンの試食会で出された培養肉 (出典:David Parry / PA Wire)

培養肉がそれほど高価では普通の人にはとても手が届かず、普及していかない。そこで期待されているのが、米国を中心に広がっている「DIYバイオ」あるいは「バイオハック」などと呼ばれるムーブメントだ。DIYバイオでは個人や小規模な組織が、大学や企業などの研究機関とは異なるアプローチでバイオテクノロジーの研究開発に取り組んでいる。日本ではShojinmeat Projectと呼ばれる有志団体が、DIYバイオによる培養肉製造にチャレンジしている(写真4)。

(写真4)Shojinmeat Projectが製造した培養肉の料理
中央のハーブの上に乗せられている白っぽいものが培養肉だ。

Shojinmeat Projectが解決しようとしている一番の課題は、培養肉製造の低コスト化である。2013年当時に比べればかなりコストは下がっているが、それでも通常のやり方で100グラムの培養肉を製造するにはまだ300万〜500万円くらいのコストがかかる。製造コストの大部分を占めているのが細胞培養液だ。Shojinmeat Projectでは、非常に高価な成長促進因子を卵黄、抗生物質を卵白、基礎培地と呼ばれる栄養源が含まれた溶液をスポーツドリンクで代替するなど、安価な培養方法の開発を試みている。こういった安価な代用材料を用いて、現在Shojinmeat Projectメンバーの高校生は自宅で貝の細胞の培養に挑んでいる。

Shojinmeat Projectから派生したインテグリカルチャーは、培養肉の商用化を目指している。ただし、スーパーで売られるまで価格が落ち着くのは2030年頃になるとみている(図1)。その過程で出てくる可能性があるのが、デザインミートと呼ばれる人工肉だ。牛肉と魚の脂肪を組み合わせるなど、自然界ではあり得ない肉を作ることもできると期待されている。

(図1)培養肉コスト予測(インテグリカルチャーのSlideShereより引用)

このように、食肉を人工的に製造することは地球環境保護にもつながる。家畜を育てるには、飼料、水、土地など、さまざまな資源が必要となる。例えば、1キログラムの牛肉を得るには、一般的には約10キログラムの飼料と2000リットルの水が必要となり、1個の卵が食料品店の店頭に並ぶまでには2400リットルの水が必要になると言われている。また、農業に利用されている水の量も、人間が飲む量よりも圧倒的に多く、従来の農畜産による食文化が変化すれば、地球環境の改善にもつながると見られている。