一人ひとりに違いがある身体の一部の特徴を識別子として使うバイオメトリクス認証。指紋認証、手のひら静脈認証、顔認証といった、既に社会実装が進んでいるものに加え、今後さらに、もっと手軽で、第三者によるなりすましを防ぎやすい技術が登場してくる。生活シーンの至るところで「ゲートレス化」が進んでいく。


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バイオメトリクス認証を利用すると、本人確認の作業を簡略化し、より便利なサービスを実現できる。適用対象は、生活の様々な場面に広がるはずだ。

歩きながらポケットに入れるだけで購入が完了するショッピングも可能に

大きく変わりそうな生活シーンがショッピングだろう。典型例が購入した商品を精算するレジがない店舗である。顧客が棚から商品を手に取り、そのまま持ち帰れるイメージだ。バイオメトリクス認証や画像識別などの仕組みを使って、精算も自動化する。精算処理を素早く進められるため、利用者にとっては、混雑時でもレジの順番を長時間待たなくて済むようになる。小売店側からすると、顧客の満足度を高められるうえ、レジ作業にかかる人件費を削減できる。自動精算されるため万引き防止にもなる。

こうした仕組みは既に、未来のショッピングスタイルとして、海外では小売事業者などがサービスを開始している。2016年12月、アマゾンがシアトルの本社で社員向けとして試験的にオープンした食品スーパーマーケット「Amazon Go」は、棚に並んだ商品の中から気に入ったものを取ってバッグの中に入れ、そのまま店外に出れば精算される“Just Walk Out(そのまま歩いて出る)”という新しいショッピングスタイルを提案して話題になった。2018年1月22日には、ショッピング用のスマートフォン・アプリを誰でもがアプリストアからダウンロードできるようになり、社員以外の一般客でもAmazon Goでショッピングができるようになった。

店内にはさまざまな角度から利用者や商品、手の動きなどを監視するカメラや、圧力センサー、重量センサー、赤外線センサー、マイクなどが設置され、商品の移動や数などを詳細にトラッキングしている。ただし、現時点では店舗に入る際に自動改札機のようなゲートを通り、スマートフォンのアプリ画面に表示させたQRコードをかざして、あらかじめ登録している会員であることを認証しなければならない(写真1)。

将来、ここにバイオメトリクス認証を採用できれば、入店時のゲートでの認証をさらに簡略化できる。例えば体臭や顔(映像)で本人を確認すれば、センサーの前を通過するだけで、あらかじめ登録してあるIDを確認できる。あとは棚から商品を取るだけで精算されるので、スマートフォンを取り出す必要もない。また、店内を移動中に、誰がどの商品をとったかを把握する必要があるが、ここでも歩容認証などを利用することにより、棚から取り出した商品と本人を正確にひも付けられるようになるだろう。

このように、バイオメトリクス認証の技術を利用すれば、店舗すら必要なくなる可能性もある。街の地下通路や駅のホームなどで棚に並んだ商品を歩きながらポケットやバッグに入れるだけで購入するような、新しいショッピング空間を生み出すこともできるかもしれない。

(写真1)現時点のAmazon Goでのショッピングではゲートでバーコードをスキャンさせてから入店する
(アマゾンのホームページ動画より引用)

すでに実現された現金やクレジットカード、スマートフォンも必要としないショッピング

Amazon Go以外にも、海外ではすでにレジがない無人店舗を実現している事例がいくつかある。そこでは、顔認証や静脈認証など、現時点で実用化されているバイオメトリクス認証を使った本人確認が行われている。この仕組みによって、利用者はいったん登録すれば、財布やクレジットカード、スマートフォンなどのモバイル端末も携帯することなくショッピングできる。

中国の家電販売店蘇寧電器(Suning)が2017年8月に江蘇省南京市でオープンした無人店舗では、利用者が店に入ると顔認識システムが識別して身元を確認する。Amazon Goのように、欲しい商品を手に取るだけでレジに並んで支払いをする必要はない。店を出る際に決済のためのレーンを通過すれば、再度システムが利用者を確認し、ネット金融プラットフォームの蘇寧金融(Suning Finance)を通じて決済が行われる。

利用者は入店前にあらかじめスマートフォンで蘇寧金融のアプリをダウンロードし、顔認証によって銀行カードとひも付けておく必要がある。ただし、いったん登録しておけば、次回以降は何も提示することなく入店できる。蘇寧電器は2017年11月には、同システムを利用した2号店を上海にオープン。今後は中国国内で大型店舗を増やし、スポーツ用品、家電製品、食品、消費財など、さまざまな商品を“顔パス”で購入できるようになる。

顔パスとまではいかないが、何も持たずに決済できる仕組みは他にもある。一例が、韓国ソウルのロッテワールドタワーにオープンした、セブンイレブンの無人店舗。ロッテワールドが提供するクレジットカード決済「HandPay決済サービス」を採用しており、決済時には手のひら静脈認証により本人確認する。署名や暗証番号の入力は必要ない。静脈は体の内側にあり、血管中の還元ヘモグロビンという生体中の成分までも認証に利用するため、他人受諾率0.00008%、本人拒否率0.01%と他のバイオメトリクス認証技術と比較しても一層安全性が高く、偽造のリスクは極めて低い。

店舗にはレジはあるが、商品のバーコードを読み取る店員がおらず、利用者が所定の場所に商品を置くとスキャナーによって認識され代金が計算される。精算の手続きは、決済端末に携帯電話番号を入力したあと、手のひらをスキャナーにかざすだけだ(写真2)。利用者の静脈パターン情報はバイオメトリクス認証サーバ上のクレジットカード情報と照合され、承認確認を終わると決済が完了する。

(写真2)ロッテワールドタワーの無人店舗で使われている手のひらによる静脈認証システム
(富士通のホームページより引用)