毎日の生活の記録が自動的に蓄積されれば、私たちの生活は今よりもっと便利になるだろう。例えば次の行動を予測して人工知能(AI)が何かをリコメントしてくれるかもしれないし、病気の診断や予防に役立てることもできるかもしれない。とはいえ、情報漏洩や改ざんの危険性を考えると、自分の情報が勝手に蓄積されていくのは気が進まない。では、そのデータが絶対に改ざんされることなく、自分が許可しなければ他人が閲覧できないとわかっていたらどうだろうか。近い将来、そんな安全性の高い情報インフラができあがる可能性がある。キーテクノロジーはブロックチェーンだ。

ビットコインなどの仮想通貨に注目が集まると同時に、その信頼性・安全性を担保するプラットフォームとしてのブロックチェーンへの関心が高まっている。通貨という、絶対に不正利用があってはならないものを管理するブロックチェーンの役割は、さまざまな取引の事実を第三者に改ざんされることなく記録として残すことである。

ブロックチェーンは、取引の記録をネットワークでつながれた複数のコンピュータに分散して保存する。過去の取引記録を改ざんするには、すべてのコンピュータに保存された情報を同時に書き換えなければならない。それは現実的には不可能であることから、高い安全性が保たれる。ブロックチェーンの分散型データ管理は、すべてのデータの閲覧権限を持つ管理者が存在する中央集約型のデータ管理と違い、自分の情報は自分が許可しない限り他人が閲覧できないプラットフォームの構築も可能にする。

そういった安全・安心が保証されるブロックチェーンの技術が広まれば、積極的にライフログを蓄積してさまざまなサービスを利用してみたいと思う人が増えるだろう。ライフログとは、駅の改札の通過、コンビニやネットショッピングでの買い物、インターネットの閲覧、医療機関の受診、イベントなどへの参加といった行動の履歴。その多くがプライバシーに関わるものだ。ブロックチェーン技術を使えば、それらを管理するプラットフォームとして、改ざんが困難で極めて信頼性が高いインフラを低廉なコストで構築できる。数多くのトランザクションをブロックに分けて時系列に管理できることから、取引や行動のトレーサビリティ管理にも役立つ。こうしたことから、ブロックチェーンは多方面から期待されている。

ブロックチェーンで集めたライフログをヘルスケアに活用

ボストンのベス・イスラエル・ディーコネス医療センターとMIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボは、ブロックチェーン技術を利用した「MedRec」と呼ばれる保健医療システムのプロトタイプを開発した(図1)。MedRecでは、医師による診察が終わった患者の医療情報をブロックチェーンのプラットフォーム「Ethereum」で記録する(現在は、より進化したMedRec 2.0の開発が進められている)。

MedRecで記録されるのは、医療センター内で行われた各種検査の結果やレントゲン画像、処方箋などの情報である。情報は記録される前に検証され、問題がなければ個々の患者が持つブロックにつながれていく。患者の診療記録は途中で記録漏れすることなく、また他人が改ざんできない状態で、数珠つなぎのブロックの形で蓄積される。

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(図1)MedRecのシステムアーキテクチャー
(MITメディアラボのホームページより引用)

本人の医療情報に関わるデータを蓄積する電子カルテのような仕組みは、現在の技術でも既に実現できている。ただ、病院での検査や診断、治療だけでなく、病院にいない毎日の食生活や血圧・体温・血糖値などの状態、サプリメントの摂取、運動の回数などまでブロックチェーンを使って1つのカルテに記録しておけば、なにか病気にかかった際に医師がその原因を細かく分析できるかもしれない。従来のように特定の機関がサーバーで情報を一元管理する仕組みでは、発生元が異なるこれらのデータを集約することは、かなり難しい。

ブロックチェーンによって個人のDNA情報を価値化する取り組みもある。米国のNebula Genomicsは、顧客のゲノム配列を解析して本人に健康情報などを提供するとともに、ブロックチェーンを使って遺伝子データを安全に管理し、幅広く活用できるようにするサービスの展開を検討している。全ゲノム解析を実施した後のデータはDNA提供者自身が所有するが、それを他の企業などに提供することでデジタルマネーが得られるという仕組みだ。遺伝子データ所有者の匿名性は保たれ、一方で購入企業の身元は全面的に開示される。

このサービスはDNA情報を提供する側だけでなく、DNA情報を入手する側の企業にとってもメリットが大きい。現状では、製薬会社などの企業がDNA情報を入手するには、遺伝子検査企業に数百万ドルの情報提供料を支払わなければならない。Nebula Genomicsは仲介業者を廃することでそのコストを省き、だれもが遺伝子データを製薬会社やその他の買い手に販売できるプラットフォームづくりを目指している。