トレーサビリティで新しい価値を生み出す

信頼性が保証された情報が蓄積できるというブロックチェーンの特徴は、食品などのトレーサビリティの分野でも活用が期待されている。米国の食品大手Cargillは2017年の感謝祭シーズンに、七面鳥の肉についてのトレーサビリティ検証を実施した。Cargillに七面鳥を納める家族経営の農家にシステムを利用させ、七面鳥がどこから来たものなのかをブロックチェーンで正確に記録できるようにするというものだ。事前に登録した消費者は、専用のWebページにアクセスし、七面鳥に付けられたタグに記載されているテキストやコードを入力することで、七面鳥が出荷された農場を調べられる(図2)。今後どこまで詳細な情報を開示するかは検討中だが、現行のシステムでも、農家は消費者に信用を売ることができるわけだ。

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(図2)Cargillが運営するHoneysuckleWhiteブランドのホームページには七面鳥を育てる農家のストーリーが掲載されている
(HoneysuckleWhiteのホームページより引用)

日本でも、ブロックチェーンによるトレーサビリティによって食品の付加価値を高め、よりいいものを求める消費者向けに食品を提供する取り組みが行われている。電通国際情報サービスは2016年10月から、宮崎県東諸県郡綾町と連携し、有機農産物の品質を保証する実証実験を進めている。綾町は1970年代から有機農業に取り組んできた、有機農家のパイオニア的な存在だ。

有機野菜は、通常の農法と比べて2倍から3倍の手間暇がかかる。しかし今の農業の仕組みでは、そのコストをそのまま価格に反映させることはできない。また、「日本の消費者は野菜が国産であるかどうかにはこだわるが、それ以上の価値にはあまり興味がない」(電通国際情報サービス オープンイノベーションラボ チーフプロディーサーの森田浩史氏)。このため有機野菜は通常のスーパーマーケットではあまり売れない。ただ、「安全な野菜を求めている消費者は確実にいる。そうした消費者に信頼性の高い野菜を届けられれば、有機農法の手間を価値化できる」。森田氏はこう考えた。

綾町の各農家は、綾町が定めた認証基準に基づいて、植え付けや収穫、肥料や農薬の使用、土壌や農産物の品質チェックなどを実施している。実証実験では、これらすべての履歴をブロックチェーン上に記録する。綾町は、このプロセスを経て出荷される農産品に、独自基準による認定マークとともに固有IDを付与する。消費者はこの固有IDで検索することにより、その農産品が間違いなく綾町産であること、綾町の厳しい認定基準に基づいて生産されたものであること、それらの履歴が改ざんされていないことをインターネット上で確認できる。これらの野菜をマルシェなどで直接消費者に販売すれば、有機農法という価値を価格に反映させることができる(写真1)。

(写真1)六本木アークヒルズで開催されたマルシェではスマートフォンで野菜の情報を見ることができた
(電通国際情報サービスオープンイノベーションラボより提供)

この実証で生産管理情報を登録するブロックチェーンは、綾町が運営・管理する、いわゆる「プライベート型」のブロックチェーンである。このような独自のプライベート・ブロックチェーンは、ビットコインなどで利用されているパブリック・ブロックチェーンと比べて処理が速いのが特徴だ。ただし、このシステム単独ではパブリック・ブロックチェーンのような客観性を保つことができない。そこで綾町では、データをまず処理が迅速なプライベート・ブロックチェーンに書き込み、その情報をエストニアのGuardtimeが提供するパブリック・ブロックチェーンで管理した(図3)。

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(図3)綾町が運営・管理するブロックチェーンの概要
(電通国際情報サービスオープンイノベーションラボより提供)

このように、ブロックチェーン技術を使って高い信頼性と安全性が保証された情報管理を実現することで、これまでは見過ごされていた分野で新たな価値化を生み出せる。例えば健康の価値化という視点では、高齢になるまで病気にかかったことがない人は、Nebula Genomicsが提供するようなサービスでDNA情報を製薬会社に高く提供できるかもしれない。逆に特定の疾患を持っている人のDNAを、製薬会社が高く手に入れることもあり得る。また、現在ある商品の価値は完成した形や素材などによって決められるが、未来の社会では製造や製作の過程が保証されるので、ものが作られたプロセスやストーリーにも価値が付けられることになりそうだ。


後編につづく