未来の食卓は、一次産業の発展にかかっている。海から離れた土地で“水道水”を使って海水魚を生産する魚工場。人工衛星を使って宇宙から海を監視することで、スマホから餌やりを行う養殖業。そして野菜と一緒に魚を生産する農家。陸上養殖やIoT活用などによって、そんな新しい形態の一次産業が実現しそうだ。

世界的な食糧需要の高まりや漁船、魚群探知機などの高性能化などによって魚の乱獲が止まらない。その結果、海に住む魚が減少。全世界の漁獲生産量を見ると天然魚の漁獲量は1985年あたりから横ばいで伸びていない。一方で、新興国においては高所得者層の増加によって食文化が変化し、魚類の需要はさらに増加の一途をたどっている。

天然漁獲の頭打ちによる魚類の供給不足を補っているのが養殖で、1990年から急増している(図1)。しかし、魚類の需要が現在のペースで増えていくと、近いうちに養殖による魚類の供給も需要に追いつかなくことがはっきりしている。その理由は、現在主流となっている海の一部を囲って行う海面養殖では、養殖に適している場所が限られているからだ。魚は魚種によって生存できる水温が決まっているため、1年中その魚に適した水温を保てる場所が必要になる。さらに、雨風など自然災害の影響を極力避けるには、入り江のような地形が求められる。こういった条件が満たせる土地は限られており、すべて埋め尽くされてしまえばそれ以上海面養殖を増やすことはできない。

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(図1)世界の漁獲量と養殖生産量
(世界漁業・養殖業白書2016年要約版より流用)

そこで注目されているのが、海ではなく陸地で魚を育てる陸上養殖である。陸上養殖とは陸地に設けられたプラントで魚を育てる養殖方法で、なかでも水道水をベースにした水を使って海の魚を育てる閉鎖循環式の陸上養殖技術が注目されている。水道水さえ確保できれば、プラントの場所は海の近くでなくてもよい。山の中など内陸部でも海産物の工場を建設できる。デパートの地下にプラントを作れば、都心でも獲れたての魚を安価で販売できるようになるし、流通倉庫内にプラントを作ればインターネットからの注文でその日のうちに新鮮な魚を届けることも可能だ。Amazon.comが漁業に携わるといったことも、それほど突飛なアイデアではないだろう。

安心安全な魚の生産工場を目指す陸上養殖

陸上養殖は、生け簀の水の使い方の違いによって大きく「かけ流し式」と「閉鎖循環式」に分けられる。1日当たりどのくらいの生け簀の水を入れ替えるかを示す「換水率」が100%を超える、つまり毎日すべての水を入れ替えるのがかけ流し式で、海の近くにプラントを作り、海から汲んできた海水を生け簀に入れ、汚れてきたら海に流して捨てる。現在は環境に与える負荷が大きいため、新規に開設することはできない。閉鎖循環式は生け簀の水を常にろ過しながら循環させるため、換水率は5%以内になる。かけ流し式と閉鎖循環式の中間で、換水率が20~50%になる半循環式もある。

閉鎖循環式の大きなメリットは、水をほとんど入れ替えず循環させるため、一定の水温を保つ際の熱効率が高いことだ。例えばサーモン類の養殖では、水温を15℃以下に保たなければならない。日本だと夏場は水温が30℃近くまで上がることがあり、水を入れ替えながら15℃を維持しようとすると電気代などの負担が大きい。

閉鎖循環式の一例は、三井物産が支援するFRDジャパンが2017年12月にさいたま市で立ち上げた魚工場だ。水道水や工業用水を海水化して使うため、海に面していない埼玉県でも海水魚の養殖が可能なことを実証している(写真1)。

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(写真1)FPDジャパンの陸上養殖用サーモンの生け簀
体の大きさに応じて生け簀を分けているので、最終的にはばらつきがなく均等に育っていくという。

こうした陸上養殖は、餌、水質を含めた生育環境などを管理しながら魚を育てられるため「食の安全」にもつながる。魚は天然物が貴重で品質も良いと受け止められがちだが、こと安全に関しては、管理された環境で“生産”したもののほうが海水中にいる病原体を避けられるなど、品質を高めやすい。これは海面養殖と比べた場合のメリットでもある。「薬剤やワクチンなどを一切使用しない、安心安全なサーモンを生産できる」(FRDジャパンの取締役COO 十河哲朗氏)。鮮度や味も、データに基づいて育成することで、より高品質な魚を生産できる可能性は十分ある。

安心安全という観点では、海面養殖のように海を汚さずに済むというメリットもある。海面養殖では穏やかな内湾の底に魚の排泄物が溜まってしまい、赤潮が発生して海洋が持続的に使えなくなる可能性がある。陸上養殖なら、そういった問題は避けられる。