陸上養殖は、海の魚を水道水をベースにした水で養殖することから、海岸から離れた山の中など、場所にとらわれることなく魚を生産できる。漁業や水産業のあり方を根底から覆す取り組みだ。漁業だけではない。養殖に使って排泄物などで汚れた水は、そのまま水耕栽培に活用できる。近い将来、一次産業の枠組みを変えてしまう可能性さえある。


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(写真1)岡山理科大学 工学部 バイオ・応用化学科 准教授の山本俊政氏
(撮影:小山 荘ニ)

山の中で野菜と魚を一緒に育てる――。陸上養殖の登場によって、こんな新しい一次産業の形態が誕生しようとしている。水耕栽培と水産養殖を同じ環境で行うアクアポニックスである。魚を養殖している水には、魚の排出物(アンモニア)が含まれ、魚にとっては毒素になる。これを微生物によって植物の肥料に変え、再び養殖に利用する。無駄なものを極力出さない、循環型の食物生産が可能になるわけだ。

日本には以前から、半農半漁という農家の経営形態が存在していた。ただ従来の半農半漁は漁業の合間に野菜を育てたり、春から秋にかけて農業を行い、田畑が使えない冬場には魚介類を養殖するというように、農業と漁業を分散して行う形態だった。アクアポニックスは農業と漁業を連動させるので、年間を通して野菜も魚も生産ができる。これまでの半農半漁の形態とは異なる。この閉鎖循環式の陸上養殖と、アクアポニックスの展開を研究しているのが、岡山理科大学 工学部 バイオ・応用化学科 准教授の山本俊政氏である(写真1)。

海水魚と淡水魚を共生させる好適環境水

「水族館の設計に関わったことから、工学的な技術を水産に生かして魚を育ててみようと考えるようになった」と語る山本氏は、もともと工学系の研究者として、金属メーカーでレアメタルなどの素材の研究開発に従事していた。その後、水族館の水槽を設計・施工する会社を設立し、岡山理科大学専門学校学科長を経て、同大学准教授に就任。その頃から、陸上養殖の研究に関わり始めた。

現在山本氏は、独自に開発した「好適環境水」を用いた完全閉鎖循環式魚類養殖技術の開発で、世界的に注目されている。好適環境水とは、海に生息する海水魚と川に生息する淡水魚を同じ水槽での共生させる水。ナトリウムやカリウム、カルシウムを溶かすことによって、海水魚が最低限必要とする成分だけを含ませた機能水である。

本来、海水魚は海水をたくさん飲んで水分を取り入れつつ、取りすぎた塩分をエラから放出して体内の塩分濃度を調整をしている。一方、淡水魚は大量の尿を排出して余分な水分を体外へ放出し、必要最低限の塩分をエラから取り入れている。それぞれに、体内の浸透圧を調整する仕組みを持っているのだ。これに対して好適環境水は、余分な塩分が含まれていないため、淡水魚でも生きられる(写真2)。

(写真2)好適環境水で満たされた水槽で泳ぐ魚たち
1つの水槽の中で、海水魚のマアジやヒレナガハギなどと一緒に淡水魚の朱文金やコメットなどが泳いでいる。

山本氏の研究室は、海から30km以上離れた岡山県の内陸部にある。この場所で海の魚を繁殖させる授業をカリキュラムに組み込んだが、「好適環境水を開発する前は、海から1トンの海水を頻繁にワゴン車で運んでいた」(山本氏)。2006年に好適環境水を完成させてからは、その必要はなくなった。ところが、2010年に現在の実験場が完成した頃に、岡山市の条例で魚類廃液を下水道に流してはいけないことになった。そこで、魚の排泄物に含まれる有害な成分をろ過する研究に取り組み、閉鎖循環式で好適環境水を再利用する技術を完成させた。