脳の働きを可視化し、製品開発に生かそうという取り組みがある。1997年から脳の研究に取り組み、医学から生物学、物理学、工学、計算理論、心理学などの分野で融合的な研究を目指している理化学研究所 脳科学総合研究センター(理研BSI)では、現在、さまざまな分野の企業と連携して、脳科学と技術の統合を目指した研究を進めている。その一環として立ち上がったのが「理研BSI-トヨタ連携センター」である。脳の可視化を車の運転支援技術や脳のリハビリに役立てようとしている。

昨今、高齢者ドライバーによる事故が後を絶たない。日本は2040年頃にピークを迎えるまで高齢者が増え続けるため、なにも対策をとらなければこの傾向は続くだろう。

その有効な対策として注目されているのが、自動運転技術だ。その実現には4つの段階があり、第1段階のレベル1は加速・操舵・制御のいずれかをシステムが行う。レベル2は、それらを組み合わせてシステムが人間の運転を支援する。レベル3になるとシステムが自動で運転を行うが、なんらかのトラブルが起きると人間が運転を代わる。そしてレベル4では、加速・操舵・制動のすべてをシステムが行い、人間は運転にまったく関与しない。(官民ITS構想・ロードマップ2016)

最近になって、ようやく限定されたシーンにおいてレベル3を実現する市販車も登場したが、レベル4の自動運転技術を完成させるには、まだ時間がかかりそうだ。レベル3でも、ハンドルから手を放して風景を眺めていた人間が急に運転を代われと車から言われて、果たしてすぐに引き継ぐことができるかは疑問が残る。

こうしたことを背景に、理化学研究所脳科学総合研究センター(理研BSI)とトヨタ自動車は、レベル4の自動運転が実用化されるまでの間に提供する車を想定した技術の研究を進めている。目指しているのは、車が人間の能力に合わせて適切に運転を支援することで、安全で運転しやすい車や、運転が楽しくなる仕組みを実現することである。

脳の働きを調べて運転支援を最適化する

そもそも人間が車を運転している時、脳のどの部分がどのように作用しているのか。それを解析すれば、ドライバーの運転特性を理解して最適な運転支援を行うシステムを自動車に組み込めるのではないか。理研BSIとトヨタ自動車は、こうした考えに基づいた研究を推進すべく「理研BSI-トヨタ連携センター」を立ち上げた。理研BSIは心理学と認知神経科学の側面からアプローチして研究するプロジェクト。一方のトヨタでは元々、運転時に道路状況などをどのようにドライバーが認識・判断するかの研究を独自に進めていた。さらに深く理解するために脳科学の基礎研究が必要と考え、同センターを2007年にスタートさせた。

研究は2012年3月までの第1フェーズ、2015年3月までの第2フェーズを経て、現在は第3フェーズに入っている。第1フェーズでは「ニューロドライビング」「ニューロロボティクス」「脳と健康」の3つのテーマに対して、個別に研究を行うのではなく7つに分かれたユニットが連携して研究を行った。その結果、脳波だけで制御・操縦できる車いす技術などを生み出した。第2フェーズからは自動車の運転に関わる研究「ニューロドライビング」と、脳卒中などの影響によって失われた機能を回復させる「ニューロリハビリ」の2つにテーマを絞り、「認知行動科学連携ユニット」「脳リズム情報処理連携ユニット」「知能行動制御連携ユニット」という3つのユニットの連携によって研究が進められている(図1)。

(図1)理研BSI-トヨタ連携センターの研究領域と連携ユニット
(理研BSI-トヨタ連携センターのホームページより引用)

ニューロドライビングとニューロリハビリという2つの研究領域は、どこに共通性があるのか分かりづらい。ただ、実際に研究を進めていると「2つの異なるテーマで共通項が見つかる効果が上がってきた。一方の研究テーマで見つかった概念やテクニック、テクノロジーが、もう一方の研究テーマでも使えることがある」(理研BSI-トヨタ連携センター 連携センター長 國吉康夫氏)という。