どのような場面でも、相手や状況に合わせて臨機応変に対話する――。コミュニケーションロボットには、まだここまでのことは期待できない。それでも、状況をある程度想定し、それに合うようにセッティングしておけば、今のコミュニケーションロボットを役立てられる領域がある。例えば店頭での接客。そこで交わされると思しき会話のフレーズや単語、対話のパターンを絞り込んで覚えさせておけば、一定レベルの仕事をこなす。高齢者を対象とした介護施設でも、利用する例が出てきている。

<<前編はこちら

今回は、主に高齢者の見守りなどを目的としたコミュニケーションロボットの活用例を紹介する。ロボットに高齢者の相手をさせると聞くと、「冷たい」などの印象を持つ読者もいるかもしれない。ただ、利用するシチュエーション次第では、高齢者に嫌な感覚を与えずに、介護者の負担を軽減できる。高齢者向け施設などでは、スタッフや同居する高齢者に打ち解けられずにいた居住者が、ロボットを介することでコミュニケーションできるようになった例もある。

NTTデータは2015年3月から3カ月間、社会福祉法人東京聖新会と共同でヴイストンの「Sota」を利用し、高齢者施設におけるコミュニケーションロボットの介護支援に関する実証実験を行った。目的は「コミュニケーションロボットによって介護者の負担を減らすこと」(東京聖新会 理事 尾林和子氏)。介護の現場においては、高齢者が夜間離床すると自動的にナースコールが鳴る仕組みが導入されており、その対応が介護者の負担を増大させる。そこで、コミュニケーションロボットを見守り用途に加え離床時の一時対応にも活用することで、介護者の負担軽減が可能か調査を行った。

実証実験では対象となった高齢者の動きをセンサーで感知し、ベッドから起き上がるとセンサーに連動したSotaが声をかけるようにした(図1)。朝の起床時には「おはよう」と声をかけ、被験者が返事をすると「体調はいかがですか?」とSotaが尋ねる。その時被験者が「具合が悪い」などと返事をした時は、「ヘルパーさんに伝えておきます」と答えるようにした。昼間もときどきSotaから能動的に声掛けを行った。これによって、これまでは調べきれなかった居室内での生活記録をとることができるようになった。夜間は、被験者の離床をセンサーが感知するとSotaが「どうしましたか?トイレですか?」と尋ね、異常がなければ「気を付けていってきてね」と声掛けを行う。その声掛けにより、要介護者は見守られていると感じられるようになり、Sotaとの会話の頻度や量が徐々に増えていった。さらに、それまではほとんど見られなかった、要介護者から介護スタッフへの能動的な声掛けも増えた。

(図1)Sotaによる声掛けのシナリオとその役割り
朝は健康状態や服薬の確認を行い、昼間は生活記録をとり、夜間は起床の記録をとる。
(資料提供:NTTデータ)

今回の実験では、これまでは介護スタッフが手書きで行ってきた介護者のバイタル記録も、Sotaとセンサーの連動によって自動的に記録できるようにした。その結果、夜間の起床回数や呼吸状態、起床理由についての情報が自動的に記録され、介護スタッフが毎日手書きで3時間を費やしていた記録業務が大幅に短縮された。

介護現場でのコミュニケーションロボットの導入は高齢者の会話を誘発し、「何らかの能動的な活動参加につながっていく可能性がある」(尾林氏)。また、介護スタッフの業務負担を軽減する効果もあるが、一方で「現時点では音声認識の精度やシステム管理についての課題が残る。それらが解決されれば介護現場での導入は有効であり、活用が望まれる」(尾林氏)。

要介護高齢者とのコミュニケーションを支援するロボット

国際電気通信基礎技術研究所(ATR)と大阪大学が共同開発した「テレノイド」を使ったサービスも動き出している。事業を展開しようとしているのはテレノイド計画だ。テレノイドは、コミュニケーションを取りたい利用者が遠隔操作するタイプのロボット。テレノイド計画は、要介護高齢者をターゲットにしたコミュニケーション支援サービスの提供を目指している。

高齢者はテレノイドを通して、離れた場所にいる介護スタッフと会話できる(写真1)。実際に高齢者施設に設置したところ、普段はスタッフとも話をせず人付き合いを敬遠していた高齢者が、テレノイドには話しかけたり、世話をしたりした例があった。テレノイドを通してコミュニケーションをとる方が心地良いと感じる高齢者さえいた。

(写真1)テレノイドを抱きかかえて話す高齢者
まるでその声の主を抱きかかえながら話しているような感覚になるという。
(写真提供:テレノイド計画)

テレノイド計画では、さらに認知症や自閉症などの患者に対して、テレノイドを使って円滑なコミュニケーションを成立させることを目指している。いずれは人工知能(AI)などを活用したコミュニケーションロボットを目指していく予定だが、「対話能力については、AIを活用してもまだまだ人間よりもつまらない。だったら、ロボットのインタフェースの良さだけを生かして裏側で人間が応えている方が受け入れられやすい」(テレノイド計画 代表取締役 渡辺雅人氏)。