約800万人とされる団塊の世代が75歳以上を迎える「2025年問題」を目前にして、厚生労働省は急ピッチで地域包括ケアシステムの構築を進めている。横並びの施策を打ち出す自治体が多い中、独自の取り組みを進める地域が出てきた。その一つとして興味深いのが、 “大学”が軸となってセーフティネットを築く手法だ。

奈良県橿原市。古都の風情が市内の各所に残るこのまちは、奈良県立医科大学のお膝元でもある。同大学で理事長・学長を務める細井裕司氏は「MBT(Medicine Based Town)」と名付けた“医学を基礎としたまちづくり”を牽引している。

MBTは同大学と同大学附属病院、早稲田大学の後藤春彦教授らが中心となって考案した、まちに医科専門大学の機能を埋め込んでいくというコンセプトである。奈良県立医大の一部は2021年に、現在のキャンパスから約1km離れた場所に移転することになっている。ただ、病院自体は残る。そこで、周辺地域全体を巻き込みながら、大学の跡地を医学・介護拠点として整備し、有効活用しようと考えている。これまで内閣府地域活性化モデルケース選定(2014年)、地域再生計画認定(橿原市/2015年)と歩みを重ね、2016年には「MBT研究所」を立ち上げてプロジェクトを推進してきた。

ICTの見守りと空き家再活用で安心して暮らせるまちを目指す

一例が現キャンパスの近くに存在する今井町という地区での取り組みだ。同地区は今も江戸時代の建築物が数多く保存されているが、古い街並みだけに空き家が増加。今後これら空き家を再活用し、退院患者の在宅復帰までのリハビリ訓練施設、健康見守り実験住宅、介護予防事業で使う地域交流スペース、医大生や看護師用の寮、海外留学生や研究者向けのゲストハウスなどに転換していく。

「今井町アネックス」と名付けた本プロジェクトは、2016年10月に本格的な活動が始まった。5年後には橿原市と奈良県立医科大学が共同で、空き家の4割程度を整備する計画である。例えばケア付き共同住宅では、1階や中庭を、多世代が触れ合えるコミュニティスペースとし、地域交流の“場”を意識的に作っていく。リハビリ訓練施設も開放型にして、看護師が常駐していつでも健康相談できるようにしたり、患者の家族が一緒に宿泊できる設備を整えたりと、街に溶け込んだ施設を目指している。

今井町での「まちなか医療拠点」のイメージ(奈良県立医科大学の資料より、2015年)

MBTでは、まちなかの拠点を生かした医療現場のICT活用促進に力を入れる。ビーコン、気象情報、自動販売機センサーなどによるIoT宅外見守りシステム、スマートメーターや温湿度センサー、照度センサー、バイタルセンサーを活用した宅内見守りシステムを柱とし、ICTによる見守り体制の確立を目指す。もちろん、医療・介護職、宅配業者、成年後見人を含め、多職種を連携させ、人手で見守る仕組みも強化する。細井氏はMBTの構想を「毎日病院に通うのではなく、まちが日常的に住民を見守るようにしたい。そのために患者に必要な施設、組織を、まちの中に作っていく」と話す。

MBTには、高齢者対策のほか、地域における産業創出の目的もある。そのために2016年1月、金融機関、民間企業との連携組織「MBTコンソーシアム」を発足させた。設立記念式には約300社が集結。開発テーマごとに「MBT産業創生分科会」を運営し、医学の知識を注入した製品開発などにつなげる。将来的にはMBTのスキームを海外にも“輸出”したいと細井氏は意気込む。