脳をコンピュータとつなぎ、人間の能力を高めたり、活動を補助したりする。そのための仕組み「Brain-Computer Interface」(BCI)の開発が進んでいる。実現できると、その先にはどんな社会が開けるのだろうか。BCIが社会にもたらすインパクトを探る。

「想像してみてください。脊髄損傷による麻痺が永続的なものではなく、一時的な障がいになる未来を。義肢がコーヒーカップの熱さを感じたり、親しい人にはより親密に握り返したりすることを。そして一時的なインプラントが脳卒中からの回復を助けたり、脳障がいの衰弱を管理したりする未来を。

現在、これらのことは不可能と思われています。しかし、双方向性を持つBrain-Computer Interface(BCI)ならば実現可能かもしれません」

これは、2017年5月に半導体設計企業の英ARMが米ワシントン大学のCSNE(Center for Sensorimotor Neural Engineering)と提携した際に表明したものだ。この提携ではARMの強みを活かし、脳内埋め込み型のSoC(System-on-a-Chip)を同機関の研究に提供することで合意。当初はパーキンソン病、アルツハイマー病、身体麻痺への適用を目標とする。

このSoCは脳からの電気信号をデジタル処理するもの。ARMらは、この信号を、脊髄に埋め込んだ刺激装置に送り、最終的には筋肉の機能をコントロールするところまで持っていこうと考えている(写真1)。さらに研究が進んで、刺激装置側からの逆向きの信号送信が可能になれば、刺激から患者が何を触っているかを脳側で感じ取れるようにさえなるかもしれない。

(写真1)「THE BRAIN AND BEYOND」と名づけたARMの取り組み(同社のリリースより)

2017年に入り、BCIがにわかに脚光を浴びるようになってきた。2016年7月には「テスラモーターズ」を率いるイーロン・マスク氏が新会社「Neuralink」を設立。2017年3月に会社の存在を明らかにするとともに、脳内にチップを埋め込み、外部のコンピュータと接続する計画を明かした。およそ1カ月後にはFacebookが開発者会議「F8」で、脳波による無言タイピングに対応していく計画を発表している。

奇しくもテクノロジー業界のリーダーたちが足並みを揃える格好となったこともあり、一部ではBCIが人工知能(AI)に続くキーテクノロジーになるのではないかと目されている。いずれにしろBCIの登場により、脳波で相互の意志をやり取りする“未来の兆し”がかすかに見えてきたことは確かだ。

開発は医療分野で先行

脳と機械の連動については、医療の世界ではBMI(Brain-Machine Interface)として早い段階から研究されてきている。四肢麻痺患者の運動・リハビリ支援、ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の意志伝達手段などが目的である。BCIは、このBMIとほぼ同義で扱われる場合が多い。

例えば米国のDARPA(国防高等研究計画局)は1970年代から熱心にBMIを研究している。2016年には同局が支援するピッツバーグ大学の研究チームが四肢麻痺の患者の脳に極小チップを埋め込み、ケーブルを介してロボットアームと接続する実験を行った(写真2)。実験は成功。患者はロボットアームの指先にある触覚センサーを通じて触感を感知した。

(写真2)ピッツバーグ大学による脳内チップ埋め込み実験の様子(DARPAの公開映像より)

ほかでも同様の研究が進められている。ブラウン大学、ケース・ウエスタン・リザーブ大学などが参加する研究団体のBrainGateは、頭に電極を刺す脳波の治験用デバイスを開発。2017年だけでも2つの事例を公開した。

いずれも四肢麻痺の患者に対するもので、1つは頭で思い描いた意志に沿ってロボットアームが動く動作支援。もう1つは、脳波だけで操る高速タイピング支援となる(写真3)。どちらも、公開されている動画を見る限り、脳からの信号が驚くほどスムーズに伝達されている。現在は治験用途に限られているものの、技術が進歩し改良が進めば、より大きな光明が見いだせるに違いない。

(写真3)BrainGateの治験用デバイスを用いた脳波による高速タイピングの様子(ブラウン大学の発表資料より)