スマートウォッチや活動量計を超え、より人体に負荷のかからないウエアラブルデバイスの研究が進んでいる。肝となるのは伸縮性のある素材を用いたフレキシブルデバイスだ。装着していることすら意識しない“電子皮膚”が普及すれば、在宅ケアや先端医療、日常の健康予防などへのアプローチが根底から変わる。

ウエアラブルデバイスと聞くと大抵の人は、スマートウォッチや活動量計など「腕に巻く」タイプを思い浮かべるだろう。スマートフォンの普及とともに広まったこれらのデバイスは、“生体情報をカジュアルに計測する”ことに貢献した。ほんの5年前と比較しても、パーソナルヘルスに対する意識はぐんと高まっている。

世界では、さらにその先を行くウエアラブルデバイスの研究が進む。その多くが柔軟性・伸縮性を備え、まるで皮膚のような形状だ。ここ数年、パッチ型や絆創膏型のプロトタイプが続々と発表され、肌に貼り付けて生体情報を収集することに成功している。

その特徴から、これらはフレキシブルデバイスと呼ばれる。仮にこうした“電子皮膚”が主流になれば、もはや体に装着していることすら意識せずにデバイスを身に付けられるようになる。ウエアラブルというよりは一体化に近いため、装着する人たちに負荷を強いることなくバイタルデータを計測できるようになり、人びとのライフスタイルを変えるとも言われる。

米ノースウエスタン大学のジョン・A・ロジャース教授は、フレキスブルデバイスの医療応用をリードしてきた人物であり、これまで伸縮性の高いシリコンを用いた電子皮膚や、心臓に貼り付けるフレキシブルペースメーカーなど、数々の画期的なデバイスを発表してきた。そのロジャース教授の最新の研究の1つは、パッチ型センサーである。薄型のパッチを皮膚に貼り付けて汗の成分を収集することで、水分補給や電解質補給をアドバイスしてくれるものだ。


(写真1)ジョン・A・ロジャース教授が開発した汗の成分を読み取るパッチ型センサー。スマートフォンでデータを読み取る仕組み(出典:米ノースウエスタン大学のYouTubeより)

パッチには4つの円が搭載されており、それぞれ汗に含まれるグルコース、乳酸、PH値、塩化物に反応し、測定数値に応じて色が変化する。計測したデータはスマートフォンで読み取り、数値が異常だと警告を発する。

ロジャース教授は研究のみならず、産業化への取り組みに意欲的なことでも知られる。2008年には自らスタートアップの「MC10」を起業。既に、医療・スポーツ科学用途の生体情報計測パッチ型センサー「BioStampRC」の研究者用キットを販売している。柔らかいため、身体の任意の場所に貼り付けられる点が特徴で、センサー内にメモリーとバッテリーを内蔵していることから単体で記録できる。収集したデータはクラウド上で管理し、場所を問わずに分析に活用可能だ。


(写真2)BioStampRCは任意の場所に貼り付け可能。採取したデータはクラウドで管理する(出典:米MC10の紹介動画より)

より身近な例としては、MC10が化粧品メーカーの仏ロレアルと共同開発した「My UV Patch」がある。ハート型のセンサーを貼り付けて紫外線のレベルを計測し、スマートフォンのアプリでスキャンすることで紫外線対策のアドバイスをしてくれる。

(写真3)ロレアルによるMy UV Patch(出典:ロレアル)

米スタンフォード大学のゼナン・バオ教授は、2000年代半ばから電子皮膚の研究に取り組み、圧力センサーを用いて電子皮膚に“触覚”を加えようとしている。バオ教授は、2010年に皮膚のような圧力センサーを開発。薄型のプラスチックに編み込むようなワッフルパターンを搭載して圧力感度を高めた。

ここに数十億本ものカーボンナノチューブを散布。プラスチックに圧力をかけることでナノチューブが相互に近づき、電気を伝導する仕組みを完成させた。これには、米ゼロックスの研究チームが独自のフレキシブルな回路印刷技術で協力している。

開発した電子皮膚はこの感圧機構と、神経細胞に電気信号を運ぶ下層の回路からなる。まだ実験を重ねている段階だが、将来的には義肢を電子皮膚で覆い、触覚、温度、痛みの信号を脳に伝送するところまで到達したいと話す。

(写真4)バオ教授による電子皮膚。圧力センサーによって触覚を与えようとしている(出典:米スタンフォード大学)